2018年11月16日

【犬の映画レビュー】「僕のワンダフルライフ」はペットロスに寄り添うために生まれた?(ネタバレあり)

愛犬家の間で話題になった映画「僕のワンダフルライフ」は、主人公ベイリーがゲームのような疾走感で転生を繰り返し、様々な犬生のなかで自分の使命に気づくというお話。

原作に隠れた小話を聞くと、きっともう一度見たくなりますよ。

映画「僕のワンダフルライフ」の原題は「ある犬の目的」


どんなジャンルの映画であれ、タイトルの原題を知ると新たな発見があります。

映画の邦題と原題は大きく異なるケースが多々あり、この意訳は“日本人に馴染み深いニュアンス”へ変換してくれることもあれば、驚くほどストーリーの趣旨とかけ離れたハズレもあり、邦題がダサすぎて誰も手に取ってもらえなかった良作もたくさんあります。

話を戻して、この映画の原題「A Dog’s Purpose」を直訳すると“ある犬の目的”。原作である小説と今作ではそれぞれ、以下のようになっていました。

原作(小説):A Dog’s Purpose
原作(小説邦題):野良犬トビーの愛すべき転生
映画:僕のワンダフルライフ

結構ニュアンスが違いますが、映画邦題もわかりやすくてよかったなと思います。「犬(ワン)」をもじったタイトル通り少しコメディちっくな雰囲気も感じられるし、人生という本作の重要キーワードもちゃんと入っています。

そして邦題では外れてしまいましたが、原題の“犬の目的”というワードは劇中で何度も繰り返されています。

▼原作の小説では、登場する飼い主なども少々異なっています。映画より過酷なシーンもありますが、映画で感動したという方はぜひ読んでみてください。

【ネタバレ注意】飼い主との関係から見る「ベイリーの目的」

散歩中の男性と愛犬 ※写真はイメージです
簡単にまとめると、ベイリーは50年のうちに3回生まれ変わり、どの犬生も個性的な飼い主と過ごしています。それぞれで不謹慎ながらも“あるある”な問題が発生しているため、ハッとさせられます。

【0.5】名前なし

最初の一生は非常に短く、人と暮らす経験もないまま転生を迎える。この時からすでに“犬の生きる目的”についてずっと考えている。

▼主人公の印象的なセリフ

「楽しむことが目的?
産まれてくる理由?
いや、そんな単純じゃないはずだ。
(中略)
―また戻ってきた、また子犬になった!
今度こそしっかり生きて、おっきな疑問の答えをとことん追求するぞ!」


【1】ベイリー(ゴールデンレトリバー)

ゴールデンレトリーバーの顔 ※写真はイメージです

炎天下の中、車内に放置され絶命しかけていたところを少年イーサン(登場時8歳)に救われる。

強調されていない演出だが、イーサンはベイリーを撫でる時に名前を連呼するくせがあり、ベイリーは当初自分の名前を「ベイリーベイリーベイリーベイリーだ」と思っているほど。

注意してみていると、イーサンは重要な場面で必ずこの癖が出ている。

▼主人公の印象的なセリフ
「男の子、男の子だ。こんな生き物がいるなんて、今まで知らなかったあ。僕はこの時決めたんだ、絶対この子を離さないって。」

【2】エリー(ジャーマンシェパード)

ジャーマンシェパードとして生まれ変わり、警察官カルロスと働く警察犬になる。

エリーが使役犬という理由か、パートナーに先立たれたカルロスの心理状況のせいか、はたまたカルロスの性分か、ベッドで一緒に寝る許可を出すまでにかなり期間がかかったところが印象的。エリーはカルロスとの仕事中に殉職する。

▼主人公の印象的なセリフ
「でも僕がいくら頑張っても、カルロスはいつも悲しそうなんだ。」

【3】ティノ(ウェルシュ・コーギー・ペンブローク)

笑顔のコーギー ※写真はイメージです

内気な大学生マヤと暮らす犬生は全体を通してみると最も平和で、マヤが「私、何を(食べたいと)考えていると思う?」という問いかけをする毎に、明らかに高カロリーな食べ物をシェアし続ける。

獣医の指導で生活習慣を見直したり、ティノをきっかけにパートナーと接近したりと、犬のいる暮らしとしては最もリアリティがある。

実はイーサン以外の“生きる目的”についてハッキリと言及する唯一の犬生でもある。

▼主人公の印象的なセリフ
「準備はできてる、今回も最高に楽しかった。」

【4】ワッフルズ→バディ(セントバーナード×オーストラリアンシェパード)

劇中では最後の転生で、トラックの荷台で行われる簡素な譲渡会で出会った若い女性に引き取られる。

犬を飼うこと自体への反対か、価値観の相違か、同棲している彼氏と女性とワッフルズの関係は徐々に悪化する。庭で長く放置されたのち、近隣の(動物虐待の)通報を受けたことをきっかけに男がワッフルズを路上へ捨てに行く。その後、ベイリーだった頃に縁があった人物と偶然出会う。

▼印象的なセリフ
「どこにも行けない、遊ぶこともできない、時だけがどんどん過ぎていく。」

飼い主とのエピソードを読んだだけでわかる通り、ベイリーの転生はまさに波乱万丈です。

でもベイリーは「僕すごい不幸!」「この飼い主嫌!」みたいな不満くさいセリフは特になく、受動的に…でも欲望には忠実に(!)暮らしているんですが、これは犬視点の映画には珍しいリアル感だったなと思います。

言語こそ人間になっていますが、あくまで犬らしい思考回路を意識して作られていることが伺えます。

警察犬が地面に伏せている様子 ※写真はイメージです

この転生のうちベイリーは何度も生きる目的について考えたり、疑問に思うような発言をします。

ベイリーはイーサンと別れてイーサンとの出会いで終わる流れの中で3度も生まれ変わっていると思うと忙しないものですが、犬の平均寿命(特に大型犬)が10歳から12歳ほどと考えると自然なことなのかもしれません。

犬は人間の何倍ものスピードで一生を終え、その短い時間の中で何が楽しくて何が悲しいのかは、一緒に暮らす人間に大きく左右されることも伝わってきます。



「僕のワンダフルライフ」原作の誕生秘話はペットロスの克服

愛犬を撫でている男性の影が壁に写っている様子 そもそも小説「A Dog’s Purpose」は、作者が自身のパートナーのペットロスを心配に思ったことがきっかけで生まれたストーリーだと言われています。

制作のきっかけが“ペットロス克服の手助け”であったことを知った上で鑑賞すると、改めて見えてくる事があります。

ベイリーは作者の気持ちを代弁している?

「自分と暮らしていて幸せだったのか」「他の人に飼われていたらもっと幸せだったのかも」などのネガティブな気持ちは、ペットロスに苦しむ人には強く付きまといます。

ただ、そばで見ていた人にとっては、その人の愛犬がいかに幸せだったかを知っている分、もどかしい気持ちで見守ることになります。

ベイリーは原作者のパートナーが飼っていた犬を再現したのではなく、むしろ原作者に代わった存在なのではないでしょうか。

だとしたら、この映画で何度も転生を繰り返し、様々な飼い主と過ごした時間を見せたことにも納得できます。

もしかしたら愛犬は姿を変えてでもあなたに会いにくるかもしれないし、そうでなくとも愛犬が“生きる目的”を全うしていたということ、と伝えたかったのかもしれません。

ベイリーはラストで、犬が生きる目的をたくさん見つけたと話します。

・もちろん楽しむこと
・可能な限り困っている人を助けること
・好きな人をペロペロすること

そして最後に、起こったことにクヨクヨしたり、自分の行動を悔やまないで、「ただこうやって今を一緒に生きるために犬はいる」と語っています。

作者がペットロスのパートナーにかけてあげたかった言葉のすべてが、ここに詰まっているのでしょう。

愛犬の前足を握る女性 ※写真はイメージです

シンプルに“犬の映画”として見ても価値ある映像作品ですが、次は“原作者の気持ち”を通して鑑賞してみてはいかがでしょうか。ベイリーに愛犬を重ねていた方は、今度はベイリーの向こうに別の方の面影を見つけるかもしれませんよ。

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文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。


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