2017年6月13日

【獣医師監修】犬に噛まれた!飼い犬が他人を噛んだ!慌てないためのトラブル対処法

監修にご協力いただきました!

2009年 日本大学生物資源科学部獣医学科を卒業、その後札幌市内の動物病院を経て

2015年 アイリス犬猫病院開院
[日本獣医循環器学会、日本獣医がん学会所属]

どんなに大人しくて優しい犬でも、何かのはずみに人間に噛み付いてしまうことがあります。

ここでは、自分が犬に噛まれないために気を付けたいことや、愛犬が他人を噛んだりしないために注意したいことをご紹介します。

また、もし噛まれたり、他人を噛んだりしてしまった際の対処法のほか、万一の備えについてもご紹介します。

犬が人を噛む状況について

喧嘩を始めそうな二匹の雑種犬 環境省の資料「犬による咬傷事故状況」によると、2015年の咬傷事故件数は全国で4,373件(うち、人以外の咬傷事故件数は165件)となっています。

このうち、飼い犬以外の野犬による事故はわずか68件で、大半の事故が飼い犬によるものだということがわかります。

また、被害者数は飼い主・家族が207人、それ以外の人が4,087人となっています。この資料からは、愛犬が誰かを噛んでしまう事故が多いことがわかります。

なお、咬傷事故が発生した状況の1位は「係留して運動中」(1,331件)、事故発生時の被害者の状況の1位は「通行中」(2,096件)、咬傷事故の発生場所の1位は「公共の場所」(2,498件)となっています。

これらのデータから推測できることは、公共の場所で犬の散歩や運動をさせているときのリスクが高いということです。

リードの長さなどに注意し、周囲の通行人と飼い犬との接触を避けるようにするといいでしょう。

被害者にならないためには、「かわいいから」などの理由で、むやみに他人の飼い犬に触れないようにすることで事故を避けられる可能性が高くなります。

愛犬が人を噛む9の原因

チワワの手を握る女性
「うちの子(愛犬)はおとなしくて、とても人を噛むようなことはしない」と思っている人も多いでしょう。

しかし、犬には「噛む」本能や習性が備わっています。その衝動をしつけや訓練で自制することを覚えさせ、噛みたくなるような状況に置かないことが大切です。

では、犬が人を噛むおもな原因には、どのようなものがあるでしょうか。

縄張りを侵害されたとき

犬は「縄張り意識」を持っています。例えば、我が家や犬舎周辺などを自分の縄張りと認識しており、縄張りを知らない人に侵されると、吠えたり噛み付いたりすることがあります。

中には、縄張りが自分の体と同一になった犬もおり、「近寄っても平気なので体に触れたらいきなり噛み付かれた」というケースもあります。

遊びのつもり

子犬同士がじゃれ合っているのを見ると、お互いの首や背中などを軽く噛み合っていることがあります。

これは「噛んでいる」というより遊んでいるのですが、人間の体は犬の鋭い牙でたやすく傷付いてしまいます。

また「噛まれた!」と慌てて手を引いてしまったために、かえって傷が深くなることもあります。

興奮している/怒っているときに体に触る

人間でも、遊んでいるうちにエキサイトしてしまうことは珍しくありません。

犬もそれと同じで、極度に興奮しているときや怒っているときに不用意に体に触ったりすると、たとえそれが飼い主であっても、つい反射的に噛み付いてしまうことがあるようです。

不安/恐怖心

例えば公園を散歩していて、子供たちの集団に突然「かわいい!」などといって取り囲まれてしまったら犬はどう感じるでしょうか。

強い不安や恐怖を感じるはずです。

さらに、このような状況で体を触られたり顔の前に手を出されたりすると、犬は自己防衛本能で相手を噛んでしまうことがあります。

同様に、犬の背後から突然大きな声をかけるなどして犬を驚かせた際、犬は本能的に相手に噛み付いてしまうことがあります。

飼い主防御のため

犬は飼い主(ご主人様)に忠実な動物です。誰かが飼い主に対して不審な行動(犬の視点からそのように見える行動)を取った場合、犬は飼い主を守るために相手を攻撃し、噛み付いてしまうことがあります。

食べ物や宝物を守るため

食事中に突然エサを取り上げたりすると、犬はエサを守ろうとして本能的に噛み付いてしまうことがあります。また、食事中の犬に触れるのも危険です。

同様に、破れたボール、犬舎に敷かれた毛布など、自分の宝物だと思っている物を取り上げたりすると、たとえ飼い主であっても噛み付いてくる場合があります。

ストレスが溜まっているとき

発情期、運動不足、狭い場所に押し込まれている、しつこくかまわれるなどの理由でストレスを溜めると、普段はおとなしい犬でも人に噛み付くことがあります。

発情期は去勢や避妊手術などで防げますが、普段は適度にストレスを発散できるような環境にしてあげましょう。

ケガ・病気が原因

ケガや病気などで痛い部分があるとき、そこを人間が触ると、患部を守ろうとして犬が噛み付いてくることがあります。

「普段は触ると喜ぶ場所を触ったら怒り出した」「ブラッシングで特定の箇所に触れたら噛み付いてきた」などの状態が見られたら、皮膚炎・外耳炎・関節外れ・骨折などがあるかもしれませんので、念のため病院に連れて行ったほうがいいでしょう。

噛んでしまう病気にかかっている

発作を起こすと突然周囲の人間や犬に噛み付く「レージ・シンドローム(激怒症候群)」という先天性の病気があります。また、脳腫瘍やてんかんなどが原因で人を噛むケースも見られます。


噛み癖をつけない方法と直す方法

革靴を噛んでいるアメリカンコッカースパニエル
幼犬は好奇心が強く、何でも噛んでみる(甘噛みする)ことで身の回りのことを学んでいきます。

また、犬は生後数週間で乳歯が生え、1歳頃までには永久歯に生え変わります。この時期は歯がムズムズするため、何かを噛みたがる傾向が見られます。

こういう時期にしつけをせず、甘やかして放置しておくと、犬は「人を噛むことはいけない」ということが理解できないまま成長してしまいます。

噛み癖は成犬になってから矯正することが難しいため、幼犬のうちから人を噛んだり、噛んではいけない物を噛んだりしたときには、その都度「ダメ!」と教えましょう。

また、しつけ用に犬が嫌いな味がするスプレーなどが市販されています。

これをスプレーした物は噛むと嫌な味がしますから、そういう経験を重ねて人や物を噛まないようにしつけるという方法もあります。

なお、噛み癖のついた成犬をしつけるのは難しいといわれていますが、プロのトレーナーに依頼することで一定の改善が見られることもあるようです。

「飼い主・家族には噛み付かないが、知らない人や犬が近寄ると噛み付きたがる」という犬や、攻撃性の高い犬の場合は、散歩時や病院の診療時などに口輪を装着することで被害を防ぐといいでしょう。

犬に噛まれたときの応急処置や治療、飼い主の連絡先について

犬に噛まれると、牙による裂傷や出血のほか、感染症の心配があります。

きちんとワクチン接種を受けている飼い犬に噛まれた場合でも、パスツレラ症や破傷風といった病気に感染する可能性が考えられますので、正しい応急処置をした上で、必ず医療機関で診療を受けてください。

応急処置としては、噛まれた部分を清潔な水で十分に洗浄し、消毒液などで消毒します。

洗浄・消毒が困難なほど出血が激しい場合は、ガーゼや清潔な布などで傷口を圧迫して止血し、救急車を要請します。

なお、受診の際には飼い主に同伴してもらいましょう。犬の予防接種歴や病歴といった医療情報を提供してもらわないと、適切な治療ができません。

また、慰謝料などでトラブルになる場合もありますので、必ず同伴してもらうようにしてください。

いずれにせよ、飼い主の連絡先を教えてもらいましょう。

このとき、故意に連絡がつかない電話番号などを伝えられる可能性もありますので、必ずその場で電話をかけてもらうことがポイントです。

また、噛まれた状況がどのようなものだったかを記録しておくことも大切です。

訴訟や慰謝料などが予想されるような場合には、現場にいた第三者に、あとで目撃情報を証言してもらえるように、連絡先を聞いておきましょう。

また、警察に通報して噛まれた経緯などを話しておくといいでしょう。

被害者または飼い主の一方的な言い分だけでなく、双方の言い分を客観的に記録に残しておくことでトラブルを回避できます。

犬に噛まれた場合の治療費について

病院の廊下
飼い主のいる犬に噛まれた場合、治療費は噛んだ犬の飼い主が負担することになります。しかし、噛まれた状況によって、対象となる保険や手続きなどが変わってきます。

まず、通常の場合であれば、医療機関で健康保険が適用され、自己負担額をいったん支払い、それを飼い主に請求することになります。

また、保険組合や協会の負担額は、加害者が支払うべき治療費を立て替えて支払っていることになります。

注意点としては、保険組合や協会に連絡するまえに示談交渉をして成立させてしまうことです。

この場合、健康保険の適用外になってしまいます。

また、健康保険の適用内だとしても、示談が成立している場合は、保険組合や協会が飼い主に負担治療費を請求できません。

そのため、結果的には被害者が医療費全額を自己負担することになります。

なお、保険会社から飼い主に請求をするために、事故に関する報告書を提出することになります。

報告書は「第三者行為による傷病届」「事故発生状況報告書」「負傷原因報告書」「念書」「損害賠償金納付確約書・念書/損害賠償金納付確約書(飼い主が記入。

拒絶された場合は理由を記載)」「同意書」などが必要です。

もし、噛まれた状況が通勤や仕事中の場合は、健康保険ではなく労災保険の対象となります。この場合は、勤めている会社の担当者から労働基準監督署に連絡することになります。

ただし、こちらも事前に示談をすると労災は受けられなくなりますので、飼い主に「示談をした」と認識されるような発言をしないよう注意しましょう。

飼い犬が人を噛んでしまった場合の対応法

興奮した様子の雑種犬をなだめる女性"
飼い犬が人を噛んでしまった場合、応急手当や治療については上記と同様の対応をしてください。

自分にとってはかわいい愛犬でも、相手から見れば自分を襲った動物です。

「じゃれただけでたいしたケガじゃない」などと不誠実な対応をせず、謝罪やお見舞いに出向くなど、誠意ある対応を心掛けてください。

なお、飼い犬が人を噛んだ場合、飼い主は保健所に「咬傷事故届」を提出することが義務付けられています。

届け出をしても殺処分になるわけではありません(よほど問題になるケースを除く)ので、必ず連絡をしましょう。

また、獣医師のいる動物病院などで診断を受け、狂犬病にかかっていないという証明診断書をもらい、併せて保健所に提出してください。

まとめ

ここでは、犬が人を噛むトラブルに関して説明してきました。

もちろん、こうしたトラブルは発生させないことが一番ですが、万が一飼っている犬が他人を噛んでケガを負わせた場合、状況によっては高額な医療費や賠償金・慰謝料などを請求されるリスクがあります。

こうした金銭的なリスクへの備えとしては、ペット保険に加入しておくという方法があります。

ペット保険と聞くと、犬の診療や手術などの医療費を保障してくれる保険を思い浮かべますが、飼い犬が他人にケガをさせたり器物を損壊したりという場合の損害賠償責任を補償する「ペット賠償責任特約」というオプション契約があります。

特約の補償範囲や内容は保険会社や保険商品によって異なりますが、「安心して愛犬と生活するため」と考え、こうした保険への加入も検討してみるべきかもしれません。

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文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。


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