2018年1月3日
【弁護士が解説】犬が散歩中にしたフンにまつわるトラブルについて
監修にご協力いただきました!
髙城晶紀先生
はづき法律事務所 代表
平成15年3月 東北学院大学法学部 卒業
平成17年3月 東北学院大学法学研究科 修士課程 修了
平成17年10月 司法試験 合格
平成19年10月 石井慎也法律事務所 入所
平成24年3月 法律事務所絆 入所
平成28年8月 はづき法律事務所 開設
愛犬の散歩中のフンの処理は、愛犬家の最も基本的なマナーですよね。
犬用のうんち処理袋やマナーバッグなど、便利なグッズもたくさん販売されています。
しかし、一部では、きちんと処理せずに放置して去ってしまうマナーの悪い飼い主もいるようです。
中には、これ見よがしにうんち袋を携帯して周囲の目を誤魔化しつつ、実際には一度もフンを拾わないという悪質なケースも…。
今回は、散歩中のフンの処理に関するトラブルについてお話しします。
愛犬のフンを放置したら処罰される?
道路に放置された犬のフンを目にするのは、愛犬家であっても、もしくは愛犬家であればなおのこと、不愉快なものです。一般的には愛犬家のマナーの問題と言われるこの話、法律的には問題ないのでしょうか。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律
いわゆる廃棄物処理法では、廃棄物を「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの」と定義しています。(廃棄物処理法第2条1項)
したがって、形式的には、犬のフンは廃棄物に該当し、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」(同法第16条)との定めがありますので、これに違反すると5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科せられることになりそうです。
(同法第25条1項14号)
もっとも、大量のフンを投棄したというのであればともかく、散歩中の犬のフンを拾わなかったくらいで廃棄物処理法違反と評価するのは難しく、同法違反の責任を追及されるというのは現実的な考えではないでしょう。
軽犯罪法
その他、該当する法律はないか探してみますと、軽犯罪法に「公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を捨てた者」を拘留又は科料に処するとありますので(軽犯罪法第1条27号)、犬のフンを放置することは同法に抵触しそうです。ただ、この場合も、「公共の利益に反して」という文言がありますし、もともと軽犯罪法は極めて軽微な犯罪を規定しており、各違反行為が日常生活において犯され易いものであることに鑑み、抑制的に運用される傾向がありますから、散歩中の犬のフンを放置したことで直ちに同法違反の責任を問われることは、やはり考えにくいと言えるでしょう。
条例
そこで現実的には、各自治体が条例として飼い主による犬のフン放置を禁じていることが多く、自治体によっては、その中で罰則まで定めていることがあります。罰則としては、1~5万円程度の過料や罰金が多いですが、勧告に従わない場合は氏名等を公表するとしている条例も少なからずあるようです。
平成25年11月には、大阪府泉佐野市がふん害防止のために元警官を巡視員としてパトロールさせていたところ、同月15日に初めて、条例に基づき、犬のフンを放置して立ち去ろうとした飼い主の男性から5千円の過料を徴収したことがニュースになりました。
民事的な責任は?
以上のように、飼い犬のフンを放置した飼い主の刑事責任としては、条例により罰を受ける可能性があるわけですが、当該自治体の条例で罰則が定められていて、実際に厳しく運用されているなどの事情がない限り、現実に刑罰を受ける可能性は高くはなさそうです。しかし、他人の敷地や玄関先などに頻繁にフンを放置して迷惑をかければ、程度によっては民事上の損害賠償責任を追及される可能性があります。
過去には、野良猫への餌やりによるふん尿被害が受忍限度を超えると判断された裁判例や、飼い主の敷地内ではありましたが、フンの堆積による悪臭等が受忍限度を超えるとして慰謝料の支払いが命じられた裁判例があります。
いずれも、同じ場所でふん尿被害が継続することにより、悪臭が発生して周囲に迷惑をかけていた事案ですから、散歩中に犬のフンを放置したケースとは異なりますが、犬がフンをする地点が決まっていていつも同じ人が迷惑を被っているとか、何度注意をしてもフンの放置を止めようとしないというような悪質な事案であれば、民事調停・民事訴訟等を提起される可能性がないとは言えません。
日本の民事裁判では、請求する側が具体的な損害を証明できない限り、なかなか損害賠償請求や慰謝料請求が認められにくいものですから、もし飼い主がフンの放置で敗訴して慰謝料等の支払い義務を負うとしても、一般的に、その金額は数万円程度の小さなものになると思われます。
しかし、現代社会においてフンの放置が悪質なマナー違反であることに異論はなく、飼い主の行為を正当化する余地はまずありませんから、そのような紛争が起きれば飼い主として周囲から強い非難を浴びることは必至であり、地域での円満な人間関係や生活の平穏が壊れてしまう危険があります。
そう考えると、愛犬家としてのマナーを守らないリスクや、違反行為の積み重ねの代償として失うものは、意外に大きくなってしまうかもしれません。
どうすれば防止できる?
飼い主の側は言わずもがな、散歩のときにはフンを回収するペーパーや袋を忘れずに準備し、面倒がらずに拾って帰ることです。フンは室内のトイレでするよう犬を躾けているため、散歩中にはさせていないという人もいると思いますが、そのような場合でも、犬の体調によっては外でフンをしてしまうこともあり得ますし、手ぶらで散歩をすることで「フンを放置する飼い主」と周囲に誤解され、トラブルになる可能性もありますので、使うかどうかに関わらず、紙と袋を常備するようにしておきましょう。
フンの回収はマナーとして当然のことですが、拾ったときのフンの色や状態から愛犬の体調の変化にいち早く気が付くこともできますので、愛犬のためにも大切な作業なのではないでしょうか。
また、家の庭などにフンを放置されて困っている、という方は、まずは「フンの放置禁止!」等の張り紙を貼るだけでも一定の効果があります。
マナーの悪い飼い主も、大抵は、特定の家への嫌がらせが目的でフンを放置しているわけではないでしょうから、周囲の目が厳しくなっていることを察したら、散歩コースを変えたり、フンを拾ったりと行動を変えるかもしれません。
(その際、お住まいの地域の条例を調べて、フンの放置には罰則がある等と付記できれば啓発にもなり、より効果的と思われます。)
それでもフンの放置がやまない場合、条例等を手掛かりに警察に相談し、警察から注意して貰うこともあり得るでしょう。
もちろん、自分で現場を押さえて直接注意をすることもあるでしょうが、犬の散歩コースということは互いに近所に住んでいる可能性が高いので、あまり関係を拗らせることのないよう、冷静な態度で注意を促したいところです。
まとめ
ペットを飼う人が増える中、社会の中で愛犬家に求められるマナーのレベルも高くなっています。しかし、マナーを守ることでお互いに気持ちよく過ごすことができ、それによって、社会の中で犬連れで活動できる範囲が更に広がるのであれば、愛犬家がマナーを守ることは、最終的には愛犬家自身の生活を豊かにしていくことに繋がるのではないでしょうか。
せっかく愛する犬と暮らし、散歩や旅行という特別な時間を共にできる楽しみがあるのですから、飼い主一人一人が基本的なマナーを守り合い、更に豊かなペットライフを皆で享受できるよう心掛けていきたいものです。
文:髙城晶紀
宮城県仙台市のはづき法律事務所代表。
男女問題や相続、借金などの一般民事事件及び刑事事件に対応。
ペットを巡る法律問題に関するご相談・ご依頼も多数。 動物との共生を考える弁護士の会・東北(通称・ハーモニー)に所属。
宮城県仙台市のはづき法律事務所代表。
男女問題や相続、借金などの一般民事事件及び刑事事件に対応。
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