2017年6月30日

【獣医師監修】犬の白内障の原因は「加齢」だけじゃない?

監修にご協力いただきました!

櫻井洋平先生

BiBi犬猫病院  院長

2008年3月 麻布大学獣医学部獣医学科卒業

2008年4月〜2013年11月 横浜市内動物病院勤務

2011年4月〜2015年3月 麻布大学附属動物病院 腎泌尿器科・外科 専科研修医として研修

2013年12月〜2015年5月 千葉県内動物病院勤務

2015年7月〜2016年2月 宮城県内動物病院勤務

2016年11月〜 仙台市にBiBi犬猫病院を開院

「白内障」は人にとっても身近な病気のひとつです。もちろん、犬にとっても同様です。

近年は医療や生活環境の向上などにより寿命が延びて、犬も人と同じく高齢化が進んでいます。そのため以前よりもシニア犬が増え、眼が白くなっている犬を見かける機会も増えてきたのではないでしょうか。

ここまでのお話でもわかるように、多くの白内障は加齢によるものですが、実は加齢が原因ではない白内障もあります!(非加齢性白内障)

「愛犬の目が濁ってきたようだけど、まだ若いから白内障ではないよね?」
身近なのにあまり理解されていない病気、犬の白内障についてお話していきます。

犬の白内障の症状とは?

眼の中心が白く濁っているシニア犬の顔 白内障とは“水晶体が白く混濁した状態”のことです。水晶体とは外から入ってくる光を屈折させ、網膜に像をうつすという重要なレンズの役割を担っています。

白内障が進行すると目が見えなくなったり、合併症が生じたりします。

犬は(人と比べると)そこまで視力に頼っていないので、初期の白内障であれば無症状のようにも見えます。一方、進行して合併症を伴っているような状態の場合、色々な症状を示していることもあります。

水晶体が白く混濁する

犬の眼を真正面から見てみると黒目の内側の丸い部分があります。これが水晶体です。白内障になるとこの水晶体の部分が白く濁ります。

水晶体の濁り方によって「初発白内障」「未熟白内障」「成熟白内障」「過熟白内障」に分類されます。

・初発白内障(にごりが15%未満)

初発白内障とは、水晶体の容積の15%未満しか濁っていない状態です。多くは視覚には問題ないことが多いので、飼い主さんが気付いていないケースも多いでしょう。

・未熟白内障(にごりが15%以上)

未熟白内障とは、水晶体の15%以上が濁っている状態です。混濁の場所や程度によっては、視力障害がみられることがあります。見た目でも濁りを確認することができることが多いです。

・成熟白内障(にごりが全体にある)

成熟白内障とは水晶体の全体が濁っている状態で、視覚障害が見られます。見た目でも、水晶体が真っ白になっています。

・過熟白内障(水晶体が溶けている)

過熟白内障とは、水晶体が溶けてしまった状態です。白内障がこの状態まで進行した場合、ブドウ膜炎(目の炎症)などの合併症が一緒に起こっている可能性が高いと言えます。
見た目では、水晶体の部分が溶けて、白く濁って見えます。この状態の場合、検査をし、適切な治療を受ける必要があります。

視力低下による行動の変化(歩き方、散歩への意欲など)

水晶体の濁りの程度によっては、視力低下がみられることがあります。先ほど挙げた段階でいえば、未熟白内障の後期、成熟白内障、過熟白内障では、視力低下が起こります。

視力の低下が起こった場合、以下のような変化が見られることが多いです。

・歩き方がぎこちなくなる
・散歩に行きたがらなくなる
・段差につまずく
・物に身体をぶつけたり、動くものに反応しなくなったりする

しかし、犬は人ほど視力に頼っていないので、水晶体が真っ白に混濁している段階でも知っている場所なら迷いなく歩いていることもしばしば。

ですので、視力の低下が死活問題になっていなくても、上記のような様子が見られている場合は、家具の配置や散歩コースを極力変更しないようにしてあげて下さい。

視力低下による性格の変化(臆病になる、攻撃的になるなど)

視力が低下したことにより、触られるのを極端に怖がるようになる犬もいます。

場合によっては、急に触られた恐怖のあまり噛みついてくるケースもみられます。視力低下がみられる際は、触る前に必ず声をかけるなどの工夫が必要です。

急速に目が見えなくなることも

白内障の進行の程度や、合併症の状態によっては、急速に視力を失うことがあります。理由としては以下のケースが挙げられます。

【1】若齢性に白内障が発症した場合
【2】合併症が一緒に発症した場合があります

【1】若齢性に白内障が発症した場合

多くの白内障は加齢性で進行するものが多いですのですが、その年齢に達する前に白内障になった場合、白内障の進行が速いケースがあります。

数週間から数カ月で初発から成熟白内障に至り、視力障害が出ることがあります。

【2】合併症が一緒に発症した場合

未熟白内障以降の白内障では、合併症が起こる可能性があります。合併症としては、ブドウ膜炎、水晶体脱臼、緑内障、網膜剥離などがあります。

水晶体脱臼、網膜剥離、時には緑内障によって急速に視力が失われることがあります。

これって白内障? よく似た症状を見分けるポイント

白く濁っていても「しっかり見えている」

中高齢の犬で眼が白っぽくみえた時に、多くの飼い主が「白内障」を考えると思います。しかし、白っぽくみえる原因が「核硬化症」の時もあります。

「核硬化症」とは、加齢に伴って、水晶体の核という部分が硬くなることで水晶体が白くみえます。

核硬化症は、視力に影響がありません。白内障と区別するには、眼の検査をする必要があります。

白というよりは「緑っぽい?」

白内障は、目が白っぽくみえます。一方、緑内障では、目が緑っぽくみえることがあります。

緑内障とは、眼圧が上昇することで失明や痛み、目が大きくなるなどの症状を示します。緑内障は緊急疾患の一つですので早期治療が必要です。


犬の白内障が起こる原因

ドーベルマンがサモエドにじゃれている様子 白内障の原因には①先天性、②若年性、③加齢性、④代謝性、⑤外傷性、⑥眼病からの誘発、⑦中毒によるものがあります。

①先天性白内障

先天性白内障は、生後2週齢ほどで眼が開いた時から1歳未満で白内障が認められる状態です。

水晶体や関係する組織の発生異常、栄養や感染が原因と言われています。白内障と一緒に、水晶体形成不全、瞳孔膜遺残などがみられることが多いです。

遺伝性の先天性白内障は、ボストン・テリア、ジャーマン・シェパード、ミニチュア・シュナウザーなどで知られています。

②若年性白内障

若年性白内障は、1~6歳(小型犬では10歳とも言われている)で認められる白内障です。

若年性白内障は、水晶体の白濁の進行が速いケースが多いので、合併症(ブドウ膜炎、緑内障、網膜剥離、水晶体脱臼など)が生じる可能性が高くなります。場合によっては、手術などの早急な治療が必要になることもあります。

好発犬種として、遺伝性が知られているのがボストン・テリア、フレンチ・ブルドックなど。

遺伝性は発見されていない犬種としては、トイ/ミニチュア・プードル、柴犬、アメリカン・コッカー・スパニエルなどです。

これらの犬種では、日ごろに生活の中で眼の色をしっかりチェックしてあげましょう。

③加齢性白内障

加齢性白内障は、小型犬で10歳以上、大型犬では6歳以上でみられる白内障です。ゆっくり進行するケースが多いので、合併症が起こらない犬もいます。

④代謝性

代謝性白内障の原因としては、糖尿病と低カルシウム血症があります。

一番多い原因は糖尿病です。糖尿病の初診時(病院で初めて糖尿病と診断された時)の約60%が白内障を患っており、糖尿病発症から1年後には約75%が白内障を発症しているというデータがあります。

糖尿病を患っている犬が白内障を発症してしまった場合、白内障の進行が速いのも特徴です。

糖尿病のコントロールが早い段階で安定し、良好なコントロールができれば進行をゆっくりにすることができます。糖尿病の治療と同時に、白内障の治療が必要になることも少なくありません。

⑤外傷性

外傷性によって水晶体がダメージを受けた場合や、外傷によってブドウ膜炎になり、その後二次的に白内障になることがあります。

ケンカによってツメや歯が眼にあたってしまったり、鋭いものが目にあたってしまったりして、その傷が水晶体の1.5mm以上のものになった時、急速な白内障の進行を起こすとされています。

外傷がある時は、角膜に傷ができる以外にもさまざまなリスクが発生するので、要注意です。しっかり動物病院で診てもらうことをお勧めします。

⑥眼病からの誘発

他の眼の病気が原因で、二次的に白内障が起こることがあります。ブドウ膜炎や水晶体脱臼、緑内障、網膜変性などが挙げられます。

これらの病気は、白内障の合併症でもあります。ですので、複数の病気が合併している時は、どの病気が最初に起きたのか分からない場合もあります。

⑦中毒

ジニトロフェノールやナフタリンの中毒で白内障になることが知られています。

ジニトロフェノールは工業用の防腐剤として使用されているものです。ナフタリンは過去に防虫剤として使用されていました。

犬の白内障の治療法とは?

獣医から目薬を点眼されている犬

診療方法

「眼が白くなった…」と気づいた場合、状況によってさまざまな検査を提案されると思います。

・徹照法

眼の中に光を入れて、光の反射を確認する方法です。白内障の場合、白濁している部分では光が返らないので、黒く抜けてみえます。

・スリットランプ検査

光の屈折を使って、眼の中を調べる方法です。特殊な器具を使用して、検査を行います。初発白内障は、このスリットランプで診断します。

水晶体のどこの部分が白濁しているか確認したり、合併症である水晶体脱臼、ブドウ膜炎が起きていないかなども同時に検査します。

白内障とよく間違われる核硬化症もこのスリットランプ検査で診断する事ができます。

・エコー検査

急速に進行する白内障では、水晶体が膨張することがあります。エコー検査をすることで、水晶体の厚さを確認したり、水晶体脱臼や網膜剥離などが起きていないかも同時に確認します。

・眼圧測定

急速に進行する白内障や、過熟白内障では緑内障が合併していることがあります。緑内障を診断するには、眼圧を測定します。

以上が「眼が白い」という症状が認められた際に選択される検査です。すべての検査が毎回必要というわけではありません。眼の状態によって、獣医師が必要な検査を判断していきます。

治療:対症療法

白内障に対して完治させるような内科的治療はありません。進行防止剤や合併症に対する対症療法を行う目薬はあります。

・老齢性初発白内障に対する進行防止剤

この目薬は、進行してしまった白内障や、老齢性以外が原因の白内障には効果はありません。

しかし、老齢性初発白内障に対して、水晶体の変性の進行を抑える効果があります。

・合併症に対する対症療法

白内障の合併症として、ブドウ膜炎や緑内障になってしまった場合、その状態に合わせて目薬を使用することがあります。

治療:外科手術

白内障に対して完治させるためには、外科的治療を行うしかありません。

一番多く行われている方法は、超音波乳化吸引術です。濁った水晶体を取り除き、人工眼内レンズを挿入します。

白内障手術によって、視覚の回復・維持が可能となり、白内障の進行に伴う合併症の発生率を下げることができます。

まとめ

公園で座っている飼い主とじゃれているラブラドールレトリバー 白内障といえば、歳をとってでてくるもの……という認識の方も多いようですが、今回お話したように年齢に関係なく発症するケースもたくさんあります。

そして白内障にもさまざまな原因があり、その多くが“早期治療”が鍵となります。

「最近、少し眼が白くなったな~」と思われたら、一度動物病院に相談してみましょう。

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文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。


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