2017年7月19日

【獣医師監修】犬の膿皮症とは?症状・治療・原因について

監修にご協力いただきました!

岡田雅也先生

そら動物病院  院長

2007年帯広畜産大学卒

京都大学大学院医学研究科中途退学(在学中、臨床獣医師としてバイトを経験)

兵庫県内の動物病院で3年

愛知県内の動物病院で3年(副院長)

2015年11月8日そら動物病院開業

犬の皮膚のトラブルって意外に多いですよね。皮膚が赤くなっていたり、かきむしったり、脱毛が起きたり………。そんな皮膚のトラブルの中で多いのが「膿皮症」です。

今回は膿皮症の種類・原因・治療などについて詳しく解説していきたいと思います。

犬の膿皮症の種類

仰向けになる犬 皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層に分かれます。表皮とは、皮膚の1番外側にある薄い細胞の層で、内部を守るバリアの役割を担っています。

健康な犬の表皮であれば約3週間で生まれ変わります。

真皮は、表皮の内側にあり、皮膚の大部分を占めています。血管やリンパ管、皮脂腺や毛包もこの真皮の部分に存在します。

皮下組織は、真皮の下の部分の組織で、その多くは皮下脂肪により構成されています。

「膿皮症」は、皮膚において細菌が増殖することで起こります。感染が起きている皮膚の深さによって、「表面性膿皮症」、「表在性膿皮症」、「深在性膿皮症」に分類されます。
 

表面性膿皮症

表面性膿皮症とは、皮膚内ではなく、皮膚の表面で細菌の増殖が起こっている皮膚炎です。

表在性膿皮症

表在性膿皮症とは、毛包とその付近の表皮に感染が起こっている皮膚炎です。膿皮症の中で最も多くみられます。

深在性膿皮症

深在性膿皮症とは、毛包全体や真皮・皮下組織まで感染が起こっている皮膚炎です。

表在性膿皮症と深在性膿皮症は、明確に区別することは難しいですが、感染の深さに応じて分類されます。

犬の膿皮症の症状って?

首を足で掻く犬 膿皮症の症状はさまざまです。感染がどこに起きているかによっても症状が異なります。膿皮症で多くみられる症状は以下のようなものになります。

痒がる様子がみられる

犬は皮膚病でなくても多少身体を掻きますが、膿皮症になるとかなり頻繁に掻くようになります。身体中を掻くのではなく、多くの場合、丘疹(プツプツ)やかさぶたなど、皮膚炎が起きている場所を掻きます。

丘疹が出て、徐々に増える

丘疹とは、身体にできるプツプツのことです。丘疹は毛包(毛穴のこと)の深い部分で炎症が起きている状態で、毛包に一致してみられることが多いです。

発疹部分で脱毛が起きる

感染が起きると、膿疹ができ、その後脱毛が起きる場合があります。脱毛が起きている辺縁にかさぶたができていることが多く、これを「表皮小環」と呼びます。

フケが出る

毛穴の漏斗部(毛穴の入口部分)に感染が起きると、毛穴周囲にフケが出る事があります。

皮膚に色素沈着が起きる

炎症が起きた時は、まず赤くなります。その後、その部分にメラニンという色素が沈着し、黒くなります。黒くなっていた場合、炎症が起きてから少し時間が経っていることを示しています。

足先に腫れや膿がみられる

犬の足先 足先は犬にとって非常になめやすい場所です。何か別の理由でなめ始めて、そこに感染が起きることで腫れや膿がでることがあります。

潰瘍ができる

潰瘍とは、ある程度の深さがある傷口のことをいいます。深在性膿皮症の場合、潰瘍ができることが多く、その潰瘍部分に液(浸出液)と膿がみられることもあります。


犬の膿皮症の原因とは?

布団にくるまって眠るパグ 膿皮症の原因は“感染”です。皮膚に常在しているブドウ球菌が原因のことが多く、何かしらの要因で皮膚のバリア機能が低下し、そこに感染が起きます。

表面性膿皮症の原因

化膿外傷性皮膚炎(急性湿性皮膚炎)

化膿外傷性皮膚炎は“ホットスポット”とも呼ばれ、表面にできた傷に感染が起きている状態です。外傷をうけたり、かきむしったりすることによって、皮膚のバリアが低下することで起こります。

高温多湿の環境による皮膚の状態の悪化や、アトピーや、食物アレルギーやノミアレルギーなどのアレルギーが根本にあることもあります。

皮膚皺襞膿皮症(ひふしゅうへきのうひしょう)

皮膚皺襞膿皮症とは、皮膚のしわの部分に感染が起きている状態です。パグやフレンチブルドックなどの短頭腫の顔面やしっぽの部分、太ったメスの陰部回りなどに起きやすいです。

表在性膿皮症の原因

表層性細菌性毛包炎

膿皮症の中で最も多い原因です。表層性細菌性毛包炎とは、毛包に感染が起きている状態です。

症状として、痒みや毛包に一致する赤い丘疹や小型の膿疱(膿が溜まったしこり)、炎症が拡大していくと表皮小環(円形・環状の化膿病変を形成する細菌感染)、短毛の犬だと脱毛斑などがみられます。

膿痂疹

膿痂疹とは、膿を含んだ黄色いかさぶたができた状態です。

深在性膿皮症の原因

表面性膿皮症や表在性膿皮症の原因菌は、ほとんど皮膚の常在菌であるブドウ球菌であることが多いですが、深在性膿皮症では、ブドウ球菌以外の緑膿菌や大腸菌など他の細菌が関連する可能性があります。

症状としては、病変部の炎症が強く、熱感や浮腫などがみられることが多くなります。皮膚病以外にも、発熱や痛み、食欲不振などがみられる場合もあります。

深層性毛包炎

深層性毛包炎とは、毛包で生じた炎症が、毛包全体から真皮まで広がった状態です。

せつ腫症

せつ腫症とは、いわゆる“おでき”です。細菌性毛包炎やニキビダニ症(ニキビダニという毛包に常在している寄生虫が引き起こす皮膚炎)などが原因で毛包が破壊され、しこりが形成されます。短毛種の下顎や、なめ壊しが起こりやすい指の間などにみられます。

胼胝(べんち)

胼胝とは、いわゆる“たこ”です。大型犬では体重の負荷がかかる部位にたこが生じ、この部位にさらなる刺激が加わると細菌感染が伴うことがあります。

特に多い部位は、ひじ関節やひざ関節、肩関節などです。寝たきりの状態になり、同じ体勢を長時間とっていると深在性膿皮症が生じる可能性があるので、要注意です。

犬の膿皮症の診断は?

スライドガラス 膿皮症の診断では、感染を確認することが重要になります。表面性膿皮症や表在性膿皮症の時は、病変部位にテープやスライドガラスを押し当てたものを染色することで細菌を検出します。

深在性膿皮症の時は、感染が重度に起きていることが多いため、根本原因が見えないことが多くあります。その際は、皮膚生検をする必要があります。

また、膿皮症は皮膚のバリア機能の低下が原因であることが多いため、基礎疾患がある場合もあります。

アトピー性皮膚炎や多汗症などの皮膚のトラブル、また全身性疾患である食物アレルギーや甲状腺機能低下症、クッシング症候群などが挙げられます。

こういった基礎疾患を精査するため、アレルギー検査や血液検査、ホルモン検査など状況に応じた検査をする必要があります。

犬の膿皮症の治療

診察を受ける犬 膿皮症の治療のメインは“感染のコントロール”です。基礎疾患がある場合は、感染のコントロールとともに、基礎疾患の治療も同時に行います。

薬用シャンプー

表層性膿皮症や表在性膿皮症の時は、薬用シャンプーも治療の一つとなります。シャンプー療法で使用される抗菌成分は、過酸化ベンゾイルや乳酸エチル、クロルヘキシジンがあります。

膿皮症に用いられるシャンプーの成分で多いのは、クロルヘキシジンです。クロルヘキシジンは抗菌作用と残留効果があります。

薬用シャンプーによるシャンプーの頻度は、治療期間中は週に 2 回程度が推奨されます。ただし、状態によっては頻度の調節が必要になりますので、獣医師の指示に従って下さい。

局所療法

局所療法は表層性膿皮症や表在性膿皮症の際に用いられます。広範囲に病変がある場合は局所療法でのコントロールは難しいので、基本的には局所に限局している場合にこの治療法が有効となります。

局所療法の種類としては、消毒や抗菌クリームなどがあります。

消毒剤は市販されているものではなく、動物病院で処方されたものを使用して下さい。消毒剤の成分はクロルヘキシジンが多いです。

抗菌クリームには様々な種類があります。

なかには、ステロイドなどと合剤になっているものもあります。ステロイドが一緒に入っているクリームを長期間塗り続けると、皮膚が薄くなるなどの副作用が出る場合がありますので、必ず獣医師の指示に従って下さい。

投薬療法

投薬療法では基本的に抗菌剤が用いられます。第一選択になる抗菌薬は、セフェム系の抗菌薬です。

しかし、すべての膿皮症にセフェム系の抗菌薬が有効であるとは限りません。抗菌薬を飲んでいても効果が無い場合、耐性菌(※)になっている可能性があります。

この場合、効果のある抗菌薬を見つけるために培養検査を行う必要があります。

投与期間は、表層性膿皮症や表在性膿皮症の場合は数週間で完治する場合が多いですが、深在性膿皮症の場合、数カ月必要になることもあります。

(※)…耐性菌とは、細菌がある種類の抗菌剤が効かなくなるような仕組みを獲得してしまうことです

基礎疾患の治療

皮膚のバリア機能が低下する基礎疾患はたくさんあります。

アトピー性皮膚炎が疑われる場合、ステロイドや免疫抑制剤(シクロスポリンやオクラシチニブなど)などの内服が必要になります。

食物アレルギーが疑われる場合は、原因となる食べ物や成分が含まれていないフードや、低アレルゲン食などに変える必要があります。状況によっては、手作り食が必要になることがあります。

甲状腺機能低下症やクッシング症候群に対する治療を同時に行う必要があります。

対症療法

膿皮症は痒みを伴うことが多いです。痒みがあるとかきむしってしまい、さらに膿皮症を悪化させてしまうこともあるため、痒みが強い場合は痒み止め(ステロイドやオクラシチニブ)を用いることもあります。

犬の膿皮症の予防法

シャワーをかけられる犬 膿皮症は犬にとっても辛いですし、愛犬が痒そうにしているところを見るのは飼い主も辛いですよね。膿皮症にならないために、日頃から取り組めるケアをご紹介したいと思います。

トリミングなどを含むメンテナンス

膿皮症を予防するには皮膚の状態を清潔に保つことが大切です。シャンプーの頻度は、その子の毛質や状態にもよりますので、獣医師に相談してみて下さい。

また、シャンプーに使う種類も大事です。皮膚のバリア機能を高める成分が入っているシャンプーを使うと、皮膚の状態が良くなることもあります。

シャンプーに加えて、ブラッシングも大切です。しかし、やりすぎは禁物です。

皮膚にダメージを与えるような方法で行うと、逆にブラシの影響で膿皮症になることもあるので、要注意です。

空調管理

高温多湿は皮膚の大敵です。夏場は涼しい程度に空調管理をしましょう。

春先~夏場は、アレルゲンも増える時期です。空気清浄機を設置したり、こまめな掃除・洗濯をしたりして清潔に保つことも重要です。

寄生虫予防

寄生虫、特にノミによる影響で皮膚炎になることがあります。ノミは、ノミダニ予防薬を定期的に使うことで防ぐことができます。

ノミ・マダニは皮膚炎を起こすだけではなく、他の病気も媒介する可能性もあるので、しっかり予防しましょう。

ストレス管理

犬はストレスがたまると身体を掻いたり、足先をなめたりするようになります。ストレスサインを見逃さず、飼い主が犬の精神衛生面を管理することも大切です。

まとめ

後ろを振り返る犬 犬がいつも同じ場所を掻いたり、なめたりしているなと感じたら、皮膚になんらかの異常が起きている可能性があります。

膿皮症に限ったことではありませんが、犬は豊かな被毛に覆われている分、初期の段階で肌の変化に気づいてあげることは難しいでしょう。

頻繁にかゆみを感じているそぶりを見せている時点で動物病院に行って、しっかり診てもらうように心がけてください。

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文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。


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