2017年10月11日

【弁護士が解説】ペット可賃貸で起こる犬の騒音トラブルについて

監修にご協力いただきました!

平成15年3月 東北学院大学法学部 卒業
平成17年3月 東北学院大学法学研究科 修士課程 修了
平成17年10月 司法試験 合格
平成19年10月 石井慎也法律事務所 入所
平成24年3月 法律事務所絆 入所
平成28年8月 はづき法律事務所 開設

隣人同士の傷害事件が発生し、理由を探ると「長年の騒音を巡る揉め事が原因だった」というような話をときどき聞くことがあります。

騒音の内容は、楽器や歌声だったり子どもの足音だったり様々ですが、躾がゆき届かず、ストレスを溜めた犬の鳴き声・吠え声で深刻に悩まされている人も少なくないようです。

騒音被害についての考え方

家の中で遠吠えする犬 私たちが社会で共同生活を営む以上、無音の静けさの中で生きることはできません。

生活に伴うある程度の騒音は、お互いさまの精神で、一人一人が我慢しなければなりません。

このようにある程度我慢しなければならない範囲を、法律の世界では「受忍限度」といいます。

しかし、その騒音が、誰であっても「これは我慢できない!」というレベルに達した場合は、周囲の生活の平穏を破壊するものと言わざるを得ませんから、「受忍限度を超えた」と評価され損害賠償や差止め請求の対象となります。

寝ている犬と子ども 犬は吠える動物であり、一般的な躾を行ったとしても全く吠えないことは考えにくいので、ペット可物件であれば犬の鳴き声・吠え声がすることはある程度許容されていると考えられます。

したがって、ペット可物件内部での鳴き声に対する受忍限度は、まさにペット可物件に居住する者同士のお互いさま精神で比較的広く解されると思われます。

とはいえ、ペットに対する基本的な躾を行うことは当然に要請されますので、「犬が長時間にわたって鳴き続ける」とか、「夜間や明け方に吠えるため他の入居者の安眠が妨げられている」などのケースでは、受忍限度を超えたものとして飼い主が損害賠償責任を追及される可能性があります。

法的にどのような対応が考えられるか

ソファに座るフレンチブルドッグ 被害を受けている方は、上記のとおり、犬の鳴き声が「受忍限度を超えた」と評価されるレベルになれば、飼い主に対し損害賠償等を請求することができます。

まずは、賃貸人や管理会社に相談し、飼い主にも事情を伝えて話し合うなどの手順をふみながら、後の手続に備えて発生している騒音を録音し、騒音が生じた日時を記録するなどして証拠を残しておくとよいでしょう。

また、マンション等の集合住宅であれば、同じように困っている住人が他にもいるはずです。

受忍限度を超えたかどうかは被害者の主観ではなく、裁判所が想定する一般人が基準となりますので、一人だけではなく複数の近隣住民から苦情が出ているという事実があれば、被害を認めて貰いやすくなります。

賃貸人や管理会社に、他からも苦情が出ていないか、騒音がもとで退去した人がいないか等を聞き、必要な情報を収集しておきましょう。

犬にマテをする飼い主 逆に、犬の鳴き声がうるさいという苦情を受けた飼い主の方は、感情的にならずに苦情を受け止め、専門家に訓練を依頼したり部屋に防音措置を施すなどして、誠実に対応することが求められます。

もし何もしなければ、被害を受けている方から裁判を起こされる可能性がありますし、被害者が裁判をせずに引っ越すことを選択した場合も、賃料収入を失った賃貸人から、損害賠償を請求されたり契約解除を通知されたりするリスクが生じます。

なお、当事者同士の意見が合わず解決できない場合は、弁護士会のADR(裁判外紛争解決手続)や裁判所の民事調停手続など、第三者入れた話し合いで一定の取り決めをする方法もありますので、検討してみて下さい。


トラブルを未然に防ぐには?

家の中のモノを散らかした様子の犬 飼い主は、愛犬が無駄吠えをしないように基本的な躾をすることに加え、規則正しい食事や運動をさせることによって犬がストレスを溜めないように気を付けましょう。

一人で解決できないときは、ドッグトレーナーなどの専門家の助力を仰ぐのも一つの方法です。

他方、騒音被害を受けている方は、どこかの段階で相手に被害を伝える必要が出てきますが、最初に関係が拗れてしまうと解決も遠のくため、まずは賃貸人や管理会社に相談するなどして、伝え方には気を付けましょう。

それまで我慢を重ねてきた分、必要以上に攻撃的な言葉を使ってしまう方が多いですが、騒音を止めるには飼い主本人に動いて貰わないといけないので、最初から敵対関係になってしまうのは得策とは言えません。

まとめ

散歩中の犬2匹と飼い主 騒音問題に関する過去の裁判例を見ると、対立が激化する背景には挨拶をしないとか隣人としてのコミュニケーションがとれていないなどの、人間関係そのものの問題が隠れているようです。

普段から隣人には礼儀正しく接し、基本的なマナーを守りあって生活することで、心の中の「お互いさま」の範囲が広くなるよう、心掛けていきたいですね。

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文:髙城晶紀
宮城県仙台市のはづき法律事務所代表。
男女問題や相続、借金などの一般民事事件及び刑事事件に対応。
ペットを巡る法律問題に関するご相談・ご依頼も多数。 動物との共生を考える弁護士の会・東北(通称・ハーモニー)に所属。


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