2017年6月13日
【獣医師監修】もし愛犬が血便をしたら!?原因と対処法
監修にご協力いただきました!
岡田雅也先生
そら動物病院 院長
2007年帯広畜産大学卒
京都大学大学院医学研究科中途退学(在学中、臨床獣医師としてバイトを経験)
兵庫県内の動物病院で3年
愛知県内の動物病院で3年(副院長)
2015年11月8日そら動物病院開業
犬の便を見た時に血が付いていると驚きますよね。
血便が出る理由はさまざまで、中には緊急性があるものもあります。
ご自宅で血便を見た時に、その血便が「様子見」でいいものなのか、急いで動物病院に連れて行った方が良いものなのか、血便の原因をお話するとともに、見極めるポイントをお話します。
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まずは愛犬の様子や血便の状態をチェック!
“血便”といっても色々な種類があり、直後の犬自身の様子もさまざまでどちらも原因特定の判断材料となります。便の状態だけでなく、犬の様子もしっかりチェックしておきましょう。
犬の便の状態は?
口から食べ物が入ると、胃である程度消化され、小腸でさらに細かく消化していきます。
その時に栄養素や水分が吸収され、大腸で吸収しきれなかった栄養素や水分を吸収することで、固形のものが作られます。
その後、ある程度の時間大腸に溜まり、身体の外に便として排出されます。この過程のどこかに異常があることで血便が出ます。
“血便”には、便の周りに鮮血が付いている場合、便の中に鮮血が混じっている場合、便全体が赤黒くなっている場合などがあります。
<便の周りに鮮血が付いている場合>
大腸の後半から肛門の間に出血する原因がある可能性が高いと言えます。このような場合、便は正常な形をしているケースが多いです。<便の中に鮮血が混じっている場合>
小腸の後半から大腸の前半部分に原因がある可能性が高いでしょう。このような便の場合、便は形になっておらず、泥状や水様性になっていたり、何度もトイレに行くような素振りがみられたりすることが多いです。
<便全体が赤黒くなっている場合>
胃から小腸の前半部分に出血の原因がある可能性が高いです。上部消化管で起こった出血が消化管を通過する間に酸化し、赤黒くなります。犬の様子
- 元気はあるか?
- 食欲はいつも通りか?
- 吐き戻しはあるか?
血便の他に、上記の様な症状があるか確認しておきましょう。
このような症状が見られる場合は、時に重篤な病気の可能性や、早めに治療しないと悪化する場合もあるので、早めに動物病院で診てもらう必要があります。
犬が血便をする原因とは?
犬が血便をした時、必ず原因があります。その原因は消化管が原因であることもあれば、消化管以外が原因となっていることもあります。異物の飲み込み
消化ができない“異物”を誤って飲み込んでしまうことで、血便が起こります。異物が消化管を通過する時に消化管の粘膜が傷ついて出血が起きます。
また、出血した場所によって便の状態は変わります。
<黒色便>
胃や小腸の前半部分で出血した場合は黒色便になる可能性が高い<鮮血が混じった便>
小腸の後半部分や大腸の粘膜が傷ついた場合は、鮮血が便に混じる可能性が高い異物が原因だった場合の特徴として、嘔吐や食欲不振を伴うことが多いです。特に、異物が消化管の中で閉塞している場合は頻回の嘔吐が起きます。
その嘔吐物が便の臭いがした場合、腸閉塞が起きている可能性が高くなります。
閉塞している場合、そのままの状態で時間が経過すると、腸が壊死をして穴が開き、腹膜炎などから死に至ることもあるため、手術による摘出など緊急の対応が必要になります。
異物を食べる犬は、このような行為を何度も繰り返すことが多いので注意が必要です。
なぜ異物を食べる癖があるかしっかり見極め、飼い主が対策をとる必要があります。
例えば、空腹が原因で異食の行動をする犬の場合、1日2回の食事を、1日3~4回の食事に変更するだけで空腹時間が短くなり、異食癖が治る可能性があります。
異食癖が腸閉塞を招いた場合は命に関わる事態になることもあるので、しっかりとした対策をとりましょう。
免疫反応
腸の免疫トラブルによって血便が起こります。その原因は食物アレルギーや炎症性腸疾患などがあげられます。
「食物アレルギー」とは、食べ物に対して身体が過敏に反応し、下痢や血便、嘔吐、皮膚炎などの症状を示します。
診断は、アレルギーテストもありますが、確定するには除去食試験というテストを行います。
炎症性腸疾患とは、腸に炎症が起こり、慢性的に嘔吐や下痢、血便などの症状を示すことが多いです。
診断は非常に難しく、血液検査、レントゲン検査、エコー検査、内視鏡検査や時として開腹を行って、生検検査を行うこともあります。
治療には、低アレルギー食、抗炎症薬(ステロイド)、免疫抑制剤などが必要になる場合が多いです。
腫瘍
腫瘍が原因で血便になることもあり、その場合、慢性的な経過をたどります。多くの場合、下痢、排便障害やしぶり、体重減少も伴います。原因としては、リンパ腫や腺癌、平滑筋肉腫などがあります。診断には、血液検査やレントゲン検査、エコー検査、内視鏡検査や試験開腹などを行います。
治療としては、抗がん剤、外科的切除などが用いられます。
肛門周りの異常
便は、最終的に肛門から排泄されます。その肛門に何らかの原因で出血が起こると、便の周りに鮮血が付着します。原因として、切れ痔や肛門周囲のトラブルがあげられます。切れ痔は、便が固かったり、大きいなど、粘膜を傷つけるような状態の時に生じます。
そのため便の状態は正常で、その便の周りに鮮血が付着します。
この場合、便を柔らかくする薬を用いたり、便量が少なくなるような食事に変更したり、フードを柔らかくしたりなどの工夫を行い、粘膜への刺激を少なくします。
肛門周囲のトラブルとして一番多いのは、肛門嚢の問題です。
肛門嚢とは、肛門の4時と8時の方向に存在する分泌物が溜まる袋です。肛門嚢に分泌物が過剰に溜まり、炎症が起きて破裂を起こしたり、出血します。
その血が便に付着し、血便に見えることがあります。この時「排便しにくそう」「おしりを気にする」といった様子がみられることが多いです。
感染症
ウイルス、細菌、寄生虫などあらゆる感染症でも下痢や血便が起きます。※これらの感染症の代表例は、次の項で詳しくお話します。
犬の血便から考えられる病気
次に、犬が血便を起こした時に考えられる病気をお話します。細菌性腸炎
クロストリジウム、サルモネラ、カンピロバクターなどの細菌が原因で血便が起こります。通常の便検査では最近の種類まで特定することはできないため、遺伝子検査(PCR検査)で細菌の有無をチェックすることもあります。
らせん菌が検出されればカンピロバクター、グラム染色でグラム陽性桿菌が出ればクロストリジウムが疑われます。
治療法として適切な抗生剤を内服します。食欲不振や嘔吐が一緒にある場合、点滴治療や制吐剤の投与などが必要となる場合もあります。
仔犬は低血糖や脱水症状を起こしやすく、命にも関わるので要注意です。
寄生虫性腸炎
犬の体内に回虫、ジアルジア、トリコモナスなどの寄生虫が入り込むことで血便が起こるケースもあります。回虫
犬に寄生する回虫には「犬回虫」と「犬小回虫」の二種類あり、犬回虫は内部寄生虫の中でもっとも一般的です。全国でも広い発生率が認められており、犬回虫の卵、または卵を体内に持っている動物を経口摂取することで感染します。
愛犬に食糞、土食の癖がある場合は感染予防のためにも早めにやめるようにしつけましょう。
感染後も無症状な成犬もいる一方で、子犬は発育不良や小腸の閉塞を引き起こし、死亡する可能性もある恐ろしい病気です。
また、犬回虫の卵は小腸で成長する場合もあれば、その他の場所で成虫になる場合もあります。
そのため胎盤や母乳を介して子犬に感染することもありますので、繁殖を考えている母犬には特に注意してください。
嘔吐物や排泄物にひも状の虫が紛れているところを発見した際は、動物病院で検査を受け早期に駆除しましょう。
ジアルジア
主に経口感染する寄生虫で、下痢や脂肪便、体重減少や食欲不振といった症状が見られます。細菌との二次感染や他の寄生虫との混合感染を起こす場合もあるので注意が必要です。
発見後は駆除薬を用いて治療を行いますが、ジアルジア症は人間でも発症するため、感染を確認した後は便の処理後に手をしっかり洗うなど、ご自身の感染予防にも気を配ってください。
トリコモナス
トリコモナスは健康な犬の腸にも存在しており、通常は感染後も無症状なことが多い寄生虫です。無症状なぶん感染が広がりやすい傾向があるため、感染元となる他の犬の便などに触れさせないよう注意してください。
感染後も無症状な犬がいる一方で、子犬や免疫力が低下している犬の場合はトリコモナス症が発症しやすく、下痢や血便といった症状から消化器系に大きな負担をかけます。
トリコモナス症の場合は対症療法が優先されることが多く、駆除薬の投与も同時に行いながら様子を見る形になります。
ウイルス性腸炎
ウイルスの感染は予防のためのワクチンなどもありますが、日本ではワクチンの接種率が低いと言われており、感染の可能性も高くなっています。ワクチン接種後の免疫を保てる期間は個体差が生じるので、定期的に摂取するよう心掛けましょう。
ウイルスの種類や犬の状態によっては命を落とす可能性もあります。特に注意しておきたいウイルスは後述するパルボウイルスです。
パルボウイルス
パルボウイルスとは非常に感染力の強いウイルスで、子犬(特に12週齢未満)に感染した場合は重篤な症状を示します。感染後2~5日で嘔吐、悪臭を伴う血便、食欲不振、脱水が起こります。また、子宮の中にいる時から8週齢未満で感染した場合、心筋炎が認められることがあります。
このウイルスはワクチンに含まれており、ワクチンによって予防ができます。
しかし、ワクチンを打っていても、まだその免疫が不十分だった場合でもこのウイルスに感染することがあります。
感染した場合は最悪命を落とすこともあるので、子犬で血便をしている場合は、早急に動物病院で診察をしてもらう必要があります。
リンパ腫
犬の消化管の腫瘍で多いのは「リンパ腫」です。中高齢以上の犬に認められることが多く、嘔吐、下痢、血便、食欲不振などの症状が慢性的に見られます。血液検査、レントゲン検査、エコー検査、内視鏡検査などで診断されます。確定診断が出たら、抗がん剤を中心とする治療を行います。
緊急性が高い血便はどんなもの?
血便の原因をいくつかお話してきましたが、その中でも「様子見」をするべきでない緊急性が高いものもあります。緊急性がある場合とはどういった状況かお話したいと思います。
子犬の血便
子犬が血便をしている時は要注意です。原因としては、パルボウイルス感染症や寄生虫によるものが多いです。パルボウイルス感染症では、まだワクチンの接種が行われていない犬あるいは、ワクチンによる抗体が十分できていない犬に重篤な症状を示すことが多く、最悪の場合、命の危険に晒されます。
寄生虫による血便の場合は、便検査をすれば多くの場合、診断がつきます。寄生虫に感染していても、していなくても駆虫薬を飲む「定期駆虫」をお勧めします。
血便以外の症状がある場合
血便の症状以外に、嘔吐や食欲不振、元気消失、脱水などの症状がある場合、きちんとした治療が必要になります。原因はさまざまなので、その際は検査を行った上で、適切な治療を動物病院で行ってもらって下さい。
そのほかに慢性的に血便が見られる場合は、慢性化の原因を特定するために動物病院へ行く必要があります。
腫瘍性疾患や炎症性腸疾患など、大きな病気が隠れている可能性があります。動物病院できちんと検査を行ってもらい、適切な治療を行ってもらいましょう。
まとめ
「便に血が混じっている」といっても原因によって緊急性は大きく変わります。とはいえ、血便がでた時点でなんらかの不調を抱えているため、楽観視できる状況ではありません。
血便がでたらその様子や犬の状態を獣医師へしっかり伝え、正しい対処ができるようにしましょう。
文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。
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