2017年6月13日
【獣医師監修】犬の心臓病とは? 症状、原因、治療法について
監修にご協力いただきました!
奥田一士先生
ゆめ動物病院 院長
2003年 日本大学生物資源科学部獣医学科卒業後、都内動物病院、日本獣医生命科学大学動物医療センター研修医
2011年4月17日 ゆめ動物病院開設
[公益社団法人東京都獣医師会大田支部 大田獣医師会所属]
犬の心臓病には、先天性と後天性があります。初期症状はわからないことがほとんどで、気がつかないうちに進行していることも少なくありません。
心臓病では特に早期発見が大切になります。
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犬の心臓病の症状とは
心臓は「右心房・右心室・左心房・左心室」の4つの部屋に分かれています。右と左の心臓の間には「中隔」という仕切りの壁があり、房室と心室の間にはそれぞれ弁があります。血液は全身への流れと肺への流れの2種類に分かれていて、次のように血液は流れています。
全身→大静脈→右心房→右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房→左心室→大動脈→全身
病気によっては流れる順番が変わってしまう場合や、うまく流れなくなってしまうことで全身にさまざまな影響が出ます。
症状
・散歩に行きたがらない
・寝ている時間が増えた
・咳が出る
・興奮すると舌の色が悪い
・心雑音がみられる
・横向きで寝るのを嫌がる
・気を失ったことがある
・寝ている時間が増えた
・咳が出る
・興奮すると舌の色が悪い
・心雑音がみられる
・横向きで寝るのを嫌がる
・気を失ったことがある
上にあげたものは典型的な症状ですが、心臓病の種類によっては初期症状がわかりにくい場合がありますので、これらの症状がないからといって安心はできません。
心臓病の初期症状は見た目ではほとんどわからないので、定期的な健康診断が大切です。
犬の心臓病の原因ってどんなものがある?
先ほども触れたように、心臓病には「先天性」と「後天性」があります。先天性の場合は生まれたときにすでに心臓に何らかの問題を持っているので、生後初めてのワクチン接種や健康診断時に診断されることがあります。
後天性は加齢とともに、だんだんと心臓の働きが弱くなっていきますので7歳以降になれば定期健診などが重要です。代表的な疾患について解説していきます。
先天性心疾患
心室中隔欠損症
犬の心室中隔欠損症は、右心室と左心室の間にある壁(この壁を中隔と言います)に先天的に孔があいています。この壁が胎児期や発育期に十分発達せず、孔が閉じないままになっている状態です。心室中隔欠損症は下記のような複雑な経過をたどります。
①左心室のほうが右心室よりも圧力が高いため、まず、左→右のシャント血流が起こる
②右心室に血流が流れ込むため、その先の肺循環の血流量増加により肺動脈が拡大する
③肺血流量が増大するため左房容量負荷および左心容量負荷がかかり、左心房拡大、左心室拡大が起こる
④肺動脈壁の肥厚や内腔の閉塞により肺血管抵抗が上昇するため、肺高血圧症となり右心室圧が上がり、右心室肥大が起こる
⑤肺血流量の低下が起こり肺動脈圧と血圧が同等になると右→左のシャントができる(アイゼンメンジャー化)
⑥心拡大は無くなるが、チアノーゼ、呼吸困難、失神などが起こるようになる
②右心室に血流が流れ込むため、その先の肺循環の血流量増加により肺動脈が拡大する
③肺血流量が増大するため左房容量負荷および左心容量負荷がかかり、左心房拡大、左心室拡大が起こる
④肺動脈壁の肥厚や内腔の閉塞により肺血管抵抗が上昇するため、肺高血圧症となり右心室圧が上がり、右心室肥大が起こる
⑤肺血流量の低下が起こり肺動脈圧と血圧が同等になると右→左のシャントができる(アイゼンメンジャー化)
⑥心拡大は無くなるが、チアノーゼ、呼吸困難、失神などが起こるようになる
本来なら右心室から肺へ血液が流れ、きれいになった血液が肺から左心房・左心室に流れ込み大動脈から全身へ送られます。この病気の場合、右心室と左心室の間に穴が開いているため、右心室から孔を通じて左心室に血液が流れ込み、左心系の血流量が増大します。その結果、左心室が拡張し、左心不全や全身の循環不全を引きおこします。
心房中隔欠損症
犬の心房中隔欠損症は、右心房と左心房の間にある壁に先天的に孔があいている状態です。心房の間の壁が胎児期や出世後の発育期に十分発達せず孔が閉じないままになり、右と左の心房が繋がっています。本来なら、右心房、右心室から肺へ血液が流れ、きれいになった血液が肺から左心房・左心室に流れ込み大動脈から全身へ送られます。
右心房と左心房の間に穴が開いていても、穴が小さければそれぞれの心房の圧に差が無いので多量の血液が流れることはなく、気づかずに一生を終える場合もあります。しかし穴が大きい場合は左心房の血液が右心房から右心室へと流れ、最終的に肺に流れ着きます。そのため常に肺が負荷を受ける状態になり、肺高血圧症が引き起こされます。
肺高血圧症が進み、アイゼンメンジャ―化という末期症状になると右心房から左心房に血流が流れるようになります。この時、チアノーゼなどの症状がみられます。
<注意しないといけない犬種>
犬ではあまり多くない疾患ですが、オールド・イングリッシュ・シープドッグでは遺伝素因があるといわれています。肺動脈狭窄症
右心室と肺動脈の境目には血液の逆流を防ぐための弁があり、この弁を「肺動脈弁」と言います。この弁に異常が起こると、弁周囲の血流が阻害され様々な障害を引き起こします。特に右心室に負担がかかることが多く、右心室肥大などの右心不全を引き起こします。初期は症状が出にくいのですが、徐々に悪化すると全身にうっ血が生じ、腹水や浮腫などがみられるようになります。ほかの先天性循環器系疾患を同時に持つことが多いようです。<注意しないといけない犬種>
イングリッシュ・ブルドッグ、フォックス・テリア、ミニチュア・シュナウザー、チワワ、サモエド、コッカー・スパニエルなどに多いといわれています。大動脈狭窄症
大動脈弁の形態異常や大動脈弁の周囲組織に異状があるために、大静脈弁周囲の血液の流れが阻害され、さまざまな障害を引き起こします。特に左心室に負担がかかることが多く、左心室肥大や全身の循環障害、心臓の機能低下などが起こります。狭窄が軽度~中程度の場合は、治療しなくても問題がない場合があります。しかし、中程度~重度の場合は、3歳までに亡くなる可能性が高くなります。突然死する場合もあります。
<注意しないといけない犬種>
ゴールデン・レトリバー、ボクサー、ニューファンドランドに好発するといわれています。ファロー四微症
肺動脈狭窄、心室中隔欠損、右心室肥大に加えて、大動脈騎乗の4つの先天性心疾患がある状態をファロー四徴症と言います。大動脈騎乗とは大動脈が左心室ではなく心室中隔の上部にあり右心室と左心室の両方からの血流が大動脈に流れ込んでしまうような状態を言います。ファロー四徴症では血液の流れが非常に複雑で動脈血と静脈血が混合するため、チアノーゼ、呼吸困難など様々な症状が起こります。一般的に、生後6~12ヶ月齢で亡くなることが多いです。
<注意しないといけない犬種>
キースホンド、ウエスティー、イングリッシュ・ブルドックに好発するといわれています。動脈管開存症
胎児期には胎児の肺は機能していないため、心臓から肺へガス交換のために血液を送ることはほぼありません。その代わり臍帯で母犬とつながり母犬との間でガス交換を行っています。胎児期には動脈管という独特の血管があり肺動脈と大動脈をつないでいます。この血管は生まれた時に閉鎖しなければならないのですが、閉鎖しない状態が動脈管遺残です。大動脈からの血液が肺動脈に流入し、肺で一緒になり左心房に流入するために左心の血流量が増大し、左心が拡張し左心不全や循環不全を起こします。
<注意しないといけない犬種>
プードル、シェパード、ボーダー・コリー、キャバリア、シェルティ、ポメラニアンなどが好発犬種です。先天性疾患では一番多い疾患で、要注意です。後天性心疾患
心筋症
心筋症には「拡張型心筋症」と「肥大型心筋症」と「拘束型心筋症」があります。①拡張型心筋症
拡張型心筋症は、心臓壁を形成している筋肉が何らかの原因で薄くなり、心臓から血液を送り出す力が低下し、うっ血性心不全を代表とする循環不全の症状を引き起こします。呼吸困難がある場合は、胸水や心膜液がたまっていることもあるので要注意です。ほかに、呼吸の状態が悪かったり、心不全が続いたりすると血栓を形成することもあります。超大型犬、ドーベルマン、ボクサー、コッカー、スパニエルなどが好発犬種です。
②肥大型心筋症
左心室を形成している筋肉が急激に肥大し、左心室内の空間が狭くなるために十分な血液量を全身に送り出せなくなります。左心室内の空間が狭くなるために、左心房には左心室に繰り込むことができない血液がたまってしまい、左心房が拡張し症状が進行すると肺水腫を引きこします。突然死を引きこすことがあります。異常な血液の流れによって血栓が形成され、この血栓が後肢の動脈に詰まると後肢の痛み、後肢の麻痺、足の先に血がめぐらなくなり足の先が冷たくなりやがて壊死してしまうこともあります。
③拘束型心筋症
心筋の収縮機能は維持されているが、左心室の拡張機能の低下が起こるため、左心房の拡大が起こり肺水腫を引き起こします。血栓塞栓症を引き起こすこともあり、突然死を起こすこともあります。僧帽弁閉鎖不全症
左心室と左心房の間には血液の逆流を防ぐための弁があり、この弁を「僧帽弁」と言います。この弁がしっかり閉まらなくなり、血液が左心室から左心房へと血液が逆流し、心不全が起こります。犬の心疾患の80%にもあたるといわれる病気です。特徴的な症状は咳です。最初は夜中から明け方や、興奮したときに何かを吐き出そうとするような乾いた咳をします。症状が進行すると時間に関係なく咳が出るようになり、なかなか止まらなくなります。呼吸困難を起こす場合や、心発作を起こして倒れることもあります。
<注意しないといけない犬種>
パピヨン、プードル、チワワ、ダックスフンド、キャバリアなどが好発犬種といわれています。フィラリア症
フィラリア(犬糸状虫)は蚊によって運ばれる寄生虫です。体内に入ってから大体3ヶ月ほどの期間をかけ、体内を移動しながら発育し続け、最終的には心臓や肺動脈へ辿りつきます。さらに3ヶ月ほどかけて心臓のなかで成虫となったフィラリアは、ミクロフィラリアと呼ばれる子どもをどんどん増やしていきます。フィラリアが住み着いてしまった肺や心臓は血液の循環が悪くなり、呼吸器や循環器、泌尿器などあらゆる器官に障害をもたらします。血液中の赤血球が壊れることにより紅茶のような血尿が出たり、急激に元気をなくしたり(急性症)することもあります。
症状が進んでしまうと心不全を患い、死に至ることもあるので、動物病院で適切な治療を受ける必要があります。
犬の心臓病を正確に診断する方法
犬の心臓病は症状や聴診で分かる場合もありますが、正確に診断するためにその他の検査方法を選択する場合もあります。心電図検査
電極を付けて心臓のリアルタイムの動きを電気の流れとしてみる検査です。心拍数や不整脈の有無を確認します。レントゲン検査
心臓の形や大きさを確認することができます。この検査では、肺に水が溜まっているかや、気管・気管支の状態などもわかります。超音波検査
体の表面に検査用のプローブを当てることで、大きなリスクなしに心臓の動きや心臓の内部をリアルタイムで確認ができる検査です。血液の逆流があるか否かも確認することが出来ます。心臓カルーテル検査
血管からカテーテルを挿入し心臓内の状態を検査したり、造影剤を注入してレントゲン撮影することで心室・心房や弁の状態などを細かく確認できる検査です。麻酔下で行う検査で、血管が細いためリスクを伴います。外科手術を行う場合は必須の検査となり、カテーテルを用いた治療法もあります。犬の心臓病の治療・自宅で気を付けることについて
体を維持していくために必要な血液を24時間休まずに送り出してくれる心臓。一度悪くなってしまうと元に戻すことは困難です。では心臓病を治療するとなればどのような治療法となるのか、また、飼い主さんが気を付けたいポイントについて解説します。犬の心臓病の治療方法
心室中隔欠損・心房中隔欠損
孔が小さい場合は経過観察にしますが、孔が大きい場合は手術を行います。早期に発見し手術を行えば、良好な生活を行える可能性が高くなります。しかし、発見が遅れうっ血性心不全の症状が出ている場合は、手術のリスクが高くなるため内服薬(ACE阻害薬、利尿薬、気管支拡張薬、強心薬など)の投与のみを行うこともあります。肺動脈狭窄症
症状が軽度の場合や、高齢犬で手術が困難な場合は、不整脈の現れ方や症状にあわせて内科的療法を行います。しかし、狭窄が重度で心臓への負担が大きい場合には手術が必要になります。手術は、狭窄している部分を広げる手術になりますが、バルーン拡張術(狭窄部分でバルーンといわれる風船状のものを膨らませて、狭窄部分を広げる手術)、弁切開術、移植手術などがあります。ファロー四徴症
内科療法で症状が少し緩和しますが長期のコントロールは非常に難しく、手術も困難な場合が多いです。動脈管開存症
対症療法的に内服薬で治療する場合もありますが、一般的には外科的処置で動脈管を閉鎖します。手術は開胸し動脈管を縫合する方法と、後肢の動脈から心臓にカテーテルを挿入し動脈管の中にコイルを設置し血流を途絶えさせる方法があります。僧帽弁閉鎖不全症
内科的治療が中心になります。心臓にかかる負担を少なくするために「利尿剤・強心薬・血管拡張薬・抗不整脈薬など」を中心に投与します。自宅で気を付けるべきこと
心疾患は初期段階では気づくことが難しいので、運動後・散歩後の体調など細かにチェックしましょう。定期的に健康診断を受け心臓のチェックをしましょう。一度悪くなった心臓はもとには戻りません。初期段階から進行を遅らせていくことが大切です。
家では次のようなことに注意してあげましょう。
・過度に興奮させない
・適正体重を守る
・食事の量は多くなりすぎないように、味付けの濃いおやつなどはできるだけ避ける
・暑さ、寒さなどは心臓の負担になるので、過ごしやすい生活環境を整える
・トリミングは体調に合わせ負担がかからないように調節
・適正体重を守る
・食事の量は多くなりすぎないように、味付けの濃いおやつなどはできるだけ避ける
・暑さ、寒さなどは心臓の負担になるので、過ごしやすい生活環境を整える
・トリミングは体調に合わせ負担がかからないように調節
高齢になると若いころに比べて、動作もゆっくりになってきます。また、遊んだりするよりもゆっくり過ごす時間が増えます。歳を取ったからと思っていたら、実は体調不良から動きたくなかったという場合もあります。
7歳以上になると元気食欲があっても定期的に健康診断を受けていきましょう。また、心臓は一度悪くなると元に戻らず、気が付かないままだと、どんどん悪化してしまいます。早期発見・早期加療が大切です。
文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。
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