2017年10月29日

【獣医師監修】犬にマダニがついた時に見られる症状とその対処法

監修にご協力いただきました!

1996年 山口大学農学部獣医学科卒業(現:山口大学共同獣医学部)

2006年 ふくふく動物病院開業

犬に寄生するマダニは血を吸うことで、さまざまな病気を媒介します。犬に寄生するマダニがヒトに病気を媒介することもあるため、家族全員での注意が必要です。

そこで今回は、マダニの生態、疾患、予防方法についてお話しします。

犬につきやすいマダニ、ほかのダニと何が違う?

犬の身体に張り付いているマダニ ダニと言ってもその種類は多く、全部で5万種類以上と言われています。マダニとよく耳にするダニはまったく違う種類で、大きさもかなり違います。

マダニの見た目

マダニは肢が8本ある節足動物で、肢が6本ある昆虫ではなくクモに近い動物です。大きさは1~10mmで、家の中に生息するコナヒョウダニやイエダニのような大きさが0.2~0.4mmの微小ダニとは大きさがまったく違います。

マダニの成長スピード

マダニは孵化すると、大きさ約1mmの幼ダニになり動物に寄生し吸血します。この間約3~7日で飽血(吸血し満腹になった状態のこと)すると地表に落下、脱皮し、大きさ約1.6mmの若ダニになります。

若ダニはまた動物に寄生して3~7日間吸血した後に地表に落下、脱皮し、脱皮後1~2週間で大きさ3~4mmの成ダニになり繰り返し動物に寄生します。

成ダニは1~2週間かけて吸血した結果、大きさが10mmほどになります。飽血状態になったメスダニは地上に落下して2~3週間かけて2000~3000個の卵を産み、生涯を終えます。

マダニは10~11月が本格的な“活動期”

マダニは3~4月ごろから増加し、10~11月が本格的な活動期になります。自然界では、山、公園、草むら、河川敷、庭などの草のある場所に生息し、動物の体温や二酸化炭素、振動などを感知して動物に素早く飛び移るといわれています。

一方、家に生息するダニはヒョウダニ類、コナダニ類、ツメダニ類で、ヒョウダニ類の中のコナヒョウダニとヤケヒョウダニが約8割を占めています。このイエダニ類が絨毯や布団などに生息しアレルギーの原因などになります。

犬のマダニで見られる症状

犬がマダニの寄生を受けた時にはどのような症状が出るのでしょうか?マダニの直接的な被害と、マダニを介した疾患について解説します。

【緊急度について】(※)
経過観察 :★☆☆
病院で相談 :★★☆
早急な対応を :★★★
(※)…こちらは病院へ行くか否かの判断で迷っている方へ向けた緊急度の目安であり、各病気の緊急性とは別のものになります

直接的な病害

耳の周辺をかいている茶色い毛並みの犬

・貧血【緊急度:★★☆】

マダニの成虫が吸血する量は約1mlと言われます。1匹の寄生だけでは貧血の大きな被害が起こる可能性は低いですが、多数寄生したり、繰り返し寄生したり、といった場合は貧血を起こす場合もあります。

・アレルギー性皮膚炎【緊急度:★★☆】

ダニが吸血するときには、寄生された動物の体内にダニの唾液が注入されます。この唾液中にはさまざまな物質が含まれており、これらが寄生された動物に重大な影響を与えることがあります。

炎症反応、刺された部分にアレルギー性皮膚炎が起こったり、ダニの口器が皮膚に残るとしこりになったりします。

・ダニ麻痺症【緊急度:★★★】

ダニ麻痺を起こすダニは日本ではあまり発生しませんが、何らかのルートで日本国内に入る可能性もあるのでご紹介します。代表的なダニはロッキー山脈森林ダニ、オーストラリア麻痺ダニなどです。

このようなダニは吸血するときに神経毒を注入し、ふらつき・歩行困難・呼吸困難などの神経症状を引き起こします。

マダニを介した疾患

犬の前足に付着しているマダニ

・バベシア症【緊急度:★★★】

バベシア症はバベシア原虫がダニを介して犬の体内に侵入し赤血球に寄生・破壊することで重度の貧血を起こす犬の病気です。バベシア・ギブソニという原虫をダニ(フタトゲチマダニ、クリイロコイタマダニ、ヤマトマダニなど)が媒介します。

以前は西日本で多発すると言われていましたが、現在は関東以北でも発生が見られるようになりました。

<症状>
発熱・黄疸・重度の貧血・脾腫・ビリルビン尿などが典型的な症状で治療が遅れると亡くなることもあります。

<治療>
治療は抗原虫薬や抗生物質などが中心になります。臨床症状に合わせて点滴などの対症療法も必要です。
ジミナゼン:駆虫効果が高い薬ですが、発現率は低いですが小脳出血が起こることがあります。注射部位の疼痛と硬結があります。

クリンダマイシン:抗生物質ですが、原虫の駆虫効果も持ちます。効き目が緩やかなので急性期の治療にはあまり向かず、再発防止や症状が軽い場合に用います。

ST合剤:原虫の治療に用い、クリンダマイシンと同様の作用を持ちます。
ドキシサイクリン、メトロニダゾールなどの抗生物質、抗原虫薬も治療に用いられます。

バベシア原虫は体内に侵入すると完全に体内から排除することが難しく再発することがあります。一度でもバベシア症にかかった場合は、免疫が下がると活動を休止していた体内のバベシア原虫が再び増殖してしまいます。免疫が下がらないように、健康管理へ気を配ってあげるようにしましょう。

また、バベシア症を予防するにはダニに寄生されないことが一番ですので、月に1回ノミダニの駆除薬を投与することが大切です。

・ライム病【緊急度:★★★】

ライム病はボレリア菌の感染で起こる病気でダニが媒介する人の病気です。人獣共通感染症で日本でも発生の報告があります。日本ではシュルツェマダニが媒介するボレリア・ガリニが有名です。症状は3期に分かれています。

<症状(段階別)>
①初期
ダニにかまれた部分が数日から数週間後に丸く赤くなります(遊走性紅斑)。筋肉痛、関節痛、発熱、頭痛などの風邪のような症状がみられることもあります。

②播種期
全身に病原体が運ばれ皮膚の発赤(遊走性紅斑)、神経症状、心筋炎、心内膜炎、角膜炎、関節炎などの症状が現れます。

③晩期
感染成立から数ヶ月~数年後、心筋炎などの心疾患、角膜炎などの眼症状、重度の慢性関節炎、慢性脳脊髄炎、慢性萎縮性肢端皮膚炎などがみられるようになります。

<治療>
治療は抗生物質が有効ですが症状は上記のように重く、ダニに刺されないように予防することが最も重要です。

マダニの活動期は春~初夏、秋なのでこの時期に野山に入る場合は肌が露出しないような服装、草むらや藪にむやみに入らないなどの注意が必要です。

万が一刺された場合は引っ張って取るのは厳禁です。口が皮膚内に残ってしまうと感染を増長する場合がありますので、皮膚科を受診しましょう。


犬の体にマダニがいた時の対処法「絶対にとってはダメ!」

犬の体にマダニがついたときには絶対に引っ張ってとってはいけません。マダニの口が皮膚の中に残り炎症を起こしてしまいます。
愛犬の毛づくろいをしている飼い主
マダニは、唾液に含まれる酵素で皮膚を溶かしながら、鋏角(きょうかく)と呼ばれる針状の構造物で皮膚を切開し、口下片(こうかへん)と呼ばれる突起物を差し込んで吸血します。

口下片のかぎ状の歯と鋏角によりマダニが皮膚に固定され、吸血時に唾液とともに分泌される物質でマダニと皮膚が硬く固定されます。そのため皮膚に寄生し吸血している状態のダニを引っ張ると胴体だけが取れてしまい、口の部分が皮膚の中に残ってしまいます。

ダニは寄生してから取るよりも寄生しないようにすることが大切ですが、寄生された場合には専用の駆除薬を使用することになります。

駆除薬には、皮膚に塗布するタイプや、飲ませるタイプなどいくつか種類があります。効果は約1~1.5ヶ月続き、ダニの寄生後48時間以内に自主的に口を離して落ちます。

アルコールや酢で除去する方法などがインターネットなどから耳に入っている方もいらっしゃるかと思いますが、いずれの方法も不確実ですのでおすすめできません。

犬のマダニは飼い主も注意!

自身のお腹を両手でおさえている男性 マダニは私たちの生活圏内の草むらなどに潜んでいます。マダニは犬に寄生するだけでなく人にも同様に寄生します。近年マダニが媒介するウイルスに感染し亡くなるケースが報告されています。犬だけでなく人もマダニに十分注意する必要があります。

・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

SFTSは2011年に報告されたブニヤウイルス科の新しいウイルスによるダニ媒介性伝染病です。日本では2013年1月にSFTSにかかっていることが始めて報告されました。2017年5月30日現在で報告数は250件で死亡例が56件に上ります。

このウイルスに感染すると6~14日間の潜伏期を経て発熱、嘔吐・下痢・腹痛などの消化器症状が多く起こり、そのほかに頭痛・筋肉痛・神経症状・出血傾向・リンパ節の腫れなどの症状が起こります。

フタトゲチマダニなどのマダニを介して感染することが多いが、感染した方の血液を介して感染することもあると言われています。現在治療は対症療法的な方法しかなく、有効な薬剤やワクチンもありません。

ほかにも「日本紅斑熱」「Q熱」「ライム病」「ボレリア症」「野兎病」「クリミア・コンゴ出血熱」など多くのダニ媒介性の感染症があります。ダニはタヌキ、キツネ、シカなどの野生動物に寄生している場合もあります。野生動物が多くすむ野山に入るときや、犬の散歩コース付近の草むら、藪は十分警戒しましょう。最近人用のダニの忌避剤が発売されていますので、そのような場所に行く際には肌の露出は絶対に避け、忌避剤を塗布し、飼い主も犬も予防を徹底しましょう。

やっかいな犬のマダニ、その予防法は?

愛犬にマダニの予防薬をつけている飼い主 マダニに寄生されると厄介です。問題は寄生されることだけではなく、そのダニが感染症を呼び起こすことが一番恐ろしいと言えます。ここでは、予防方法について解説します。

・マダニが感染しやすい部位

「耳周囲・眼のふち・脇・首の下・内股・指の間」
上記の部位への寄生が非常に多くみられますが、もちろんその他の部位にも寄生しますので要注意です。

・マダニの予防薬

予防薬には「滴下薬」「内服薬」「首輪」があります。それぞれにメリットデメリットがありますので、かかりつけの動物病院でよく相談したうえで購入してください。ノミとマダニに効果があるだけでなく、フィラリアやその他の内部寄生虫にも効果があるものもあります。

また、薬によっては脱毛が起きたり、嘔吐などの消化器症状が起こるものもあります。初めて使用する薬の場合は投与後体調をよくみてあげてください。気になる様子があれば早めに獣医師に相談してください。

愛犬の顎を撫でている男性 マダニは犬に被害をもたらすだけではなく、人間にも大きな影響をもたらします。繰り返しにはなりますが、マダニは寄生してから駆除するものではなく、寄生させないように予防することが重要です。

重篤な症状をもたらす可能性があるバベシア症や人に被害を起こすライム病、SFTSは最悪の場合命にかかわります。犬のためにも自分自身のためにも、マダニの予防はしっかり行いましょう。

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文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。


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