2017年7月3日
【獣医師監修】犬の肥満細胞腫で見られる症状と治療法
肥満細胞とは体の中にあるさまざまな細胞の一種です。名前が「肥満細胞」なので、肥満気味の犬たちの病気と思われがちですが、まったく関係ありません。
肥満細胞腫は犬の腫瘍の中でも比較的よくみられ、悪性のものが多く抗ガン剤治療が必要になるケースもあります。
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肥満細胞腫について
(1)肥満細胞腫ができやすい部位
犬の肥満細胞腫は皮膚で発生することが最も多く、皮膚上にできる腫瘍の7~20%を占めています。悪性の皮膚腫瘍の中でも肥満細胞腫の発生率は高く11~27%と言われています。皮膚にできる肥満細胞腫で最も発生の多い部位は脇腹と股の周囲(50%)と四肢(40%)、残りの10%は頭や頸と言われています。皮膚以外の場所で多く発生するのは、肝臓・脾臓・腎臓です。
(2)肥満細胞腫と肥満
肥満細胞腫と肥満。同じ「肥満」という言葉がありますが、最初に触れたように意味はまったく違います。肥満細胞は肺や消化管に正常の状態で多数の肥満細胞が存在しますが、この部位に肥満細胞腫が発生する割合は低く、肥満細胞がたくさんある場所に肥満細胞腫が発生するわけではありません。
肥満細胞は粘膜下組織や結合組織などに存在する細胞で、炎症や免疫反応などの生体防御に深くかかわっています。
形がボールのように丸く膨らんだ形状のため肥満細胞と名付けられています。
(3)肥満細胞腫の悪性度
犬の皮膚にできる肥満細胞腫は基本的にすべて悪性です。悪性がどの程度であるかを「悪性度」と言い、肥満細胞腫の場合は3段階に分けます。転移があるかどうかも含め、悪性度を分けることで必要となる治療が変わります。
このようなグレードわけは皮膚にできる肥満細胞腫に対して行い、皮膚以外の場所にできた肥満細胞腫は悪性度の高いものとします。
悪性度は細胞を採取する細胞診では確定できず、手術で摘出した腫瘍を病理検査に出すことでわかります。
犬の肥満細胞腫の症状って?
犬の肥満細胞腫の外見は2つに分けることができます。しかし見た目だけで決めるのは大変危険です。気になって触りすぎると嘔吐や下痢が起きてしまうこともありますので、気になるできものを見つけた時点で早めに受診しましょう。
肥満細胞腫による“できもの”の見た目
肥満細胞腫で皮膚にできるものは一般的に2つの見た目に分けることができます。①表面がただれたようになっている
最も一般的なものは大きさが1~10㎝くらいで、最も多いサイズが直径3㎝未満です。腫瘤と正常部の境界が明瞭で、盛り上がっていて、触ると硬く、表面が赤くなっていたり潰瘍のようにただれた感じになっています。痒みが伴う場合もあります。
②腫瘤と正常部の境界が不明瞭
やわらかく表面には毛が生えていて、潰瘍や皮膚の発赤はありません。このタイプは①に比べるとあまり多くなく、脂肪腫と間違えやすいので要注意です。このように、肥満細胞腫の外見はワンパターンではなく、見た目から腫瘍の種類や悪性度は判断できませんので、下手に様子見をせず動物病院へかかりましょう。
犬が噛んだり、舐めたりすると「ダリエ徴候」が起きる
そのほかにも皮膚に「ダリエ徴候」と呼ばれる発赤が起こることがあります。肥満細胞にはヒスタミンやヘパリンなどの化学物質が含まれていて、刺激を与えられると一気に放出され炎症を起こします。
その結果皮膚が赤くはれてしまったり、食欲不振、嘔吐や下痢が起こったり、出血が止まりにくいなどの症状が現れます。
肥満細胞腫は転移するケースも
肥満細胞腫が進行すると転移が起こることもあります。転移は、もともとあった腫瘍から腫瘍細胞の一部がリンパ管に入り、近い場所にあるリンパ節の中に入ります。そこで腫瘍細胞が定着するとリンパ節転移が成立します。1つのリンパ節で、リンパ節転移が成立するとそのリンパ節からリンパ管経由でほかのリンパ節や臓器にも腫瘍細胞が流れていきあちこちの臓器に転移が起こります。
このような転移が起こりやすい臓器には、肝臓・脾臓・骨髄・ほかの部位の皮膚などがあげられます。
犬の肥満細胞腫の原因と検査方法
肥満細胞腫の原因は、はっきりわかっていません。遺伝説や老化による免疫機能の低下など諸説あり、実際8~9歳を超えたころから発生率が上がります。ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、ボストンテリアなどが好発犬種といわれていますが、あらゆる犬種で起こり得るので「好発犬種に当てはまらないから」と安心することはできません。
肥満細胞腫の検査方法
皮膚に腫瘤を見つけた場合まず確認のために細胞診を行います。ほかにも全身を触りリンパ節転移や他の部位に腫瘤がないかを確認したり、CT検査でどの程度の範囲に腫瘤があるかを確認したりします。(1)細胞診
「どのような腫瘍の疑いがあるのか」または「腫瘍ではなくて炎症なのか」を確認する検査です。細い注射針を使い腫瘤の中の細胞を採取し、顕微鏡で検査を行います。針を刺す時の痛みは少しありますが、無麻酔でできる比較的簡単な検査です。
肥満細胞腫の細胞は特徴的で顆粒がたくさん散らばったように見えるので、細胞診のみで判断がつくこともあります。
(2)転移のチェック
腫瘍ができている付近のリンパ節や体のほかの部位を触診し、転移がないかをチェックします。付近のリンパ節にも細胞診を行い、リンパ節に転移がないかを確認します。
(3)CT検査
腫瘍の断面図を見て、広がりや腫瘍の厚みを確認できる検査です。麻酔をかけて行う必要があります。(4)遺伝子検査
細胞診と同じように腫瘤に針を刺し細胞をごく少量採取して、腫瘍細胞の遺伝子異常がないか確認する検査です。c-kit遺伝子に異常があるかないかを確認します。この遺伝子の有無を確認することで、腫瘍の悪性度や治療薬の効果の予測が可能です。
犬の肥満細胞腫の治療法
肥満細胞腫の治療方法は、主に外科手術、抗ガン剤治療、放射線治療の単独あるいはさまざまな組み合わせで行います。どのような治療方法にするかは、犬の状態や腫瘍のグレードで変わります。
(1)外科手術
転移が認められない肥満細胞腫の多くは、外科手術で完全に取り除くことができればほぼ根治できます。ただしグレードが上がるにしたがって、目に見えないレベルで腫瘍細胞が周囲の組織に浸潤しているために、腫瘍の端から3㎝外側から腫瘍を切除摘出する必要があります。
腫瘍ができている場所によってはこのように広い範囲で切除することは困難な場合があるので、のちに放射線治療が必要になることもあります。
いずれにしても、切除した腫瘍組織は病理検査に出し、腫瘍組織の取り残しの有無と血管やリンパ管への腫瘍細胞の浸潤の有無、悪性度などを含めて確認し、今後の治療方針を立てる必要があります。
(2)放射線治療
外科手術だけで腫瘍のすべてを取り除くことが難しい場合には、残った腫瘍細胞をなくすために放射線治療を行うことがあります。放射線治療は細胞に放射線を当て殺傷する方法で、正常の細胞が死滅しないレベルの放射線を複数回当てることで腫瘍細胞を殺滅します。
肥満細胞腫を切除した際に、顕微鏡レベルで取り残しがあった場合には、約90%の確率で同じ部位での再発の恐れがあります。
病理検査に出した際に、完全に取り切れていないとの診断結果であった場合には再度切除するか、放射線治療を行うことをおすすめします。
また、外科手術をせずに放射線治療を行っても腫瘍細胞の数が多すぎるために、腫瘍細胞の中に生き残りができてしまいます。放射線のみで治療をしても根治は見込めません。
放射線治療には、低い線量を15~20回照射する方法と、高い線量を4~6回照射する方法があります。
低い線量を複数回照射したほうが照射することができる放射線の総量が大きくなるので効果も大きくなります。
しかし回数が多くなり、毎回全身麻酔下で行うために、犬の体への負担が大きくなるうえに費用も高くなります。
高い線量を当てる場合は放射線の総量が少なくなり、腫瘍に対する効果は劣りますが、体力面で心配のある犬や、すでに転移がある場合などには、身体への負担や治療費の軽減を目的に行われることもあります。
(3)抗ガン剤治療
肥満細胞腫の腫瘍細胞が見えないレベルで全身に転移することを防ぐ目的で行います。外科手術や放射線治療は局所的な治療ですが、抗ガン剤は全身的な治療です。抗ガン剤は全身的な治療なので見えない部分まで治療できますが、腫瘍を摘出しない状態で抗ガン剤を投与しても治療効果は高くありません。
<肥満細胞腫に対して効果がある抗ガン剤または有効な薬>
・ステロイド
ステロイドにはさまざまな作用があり、炎症やアレルギーを抑制する薬としてよく使用されます。肥満細胞の増殖を抑え、肥満細胞腫自体のサイズを小さくする効果もあります。また、肥満細胞内にたくさん含まれているヒスタミンの放出を抑制し、消化器症状を抑える働きがあります。
ステロイドは安価な薬剤なので使用されることが多いのですが、単独使用では効果が長続きしないので、他の薬と併用することが多くなります。
・抗ガン剤
抗ガン剤には多くの種類があり、腫瘍の種類によって使用する抗ガン剤を選択します。肥満細胞腫の場合はビンブラスチンやロムスチン等を用いることが多く、投与は動物病院内で行います。
副作用として「食欲不振、嘔吐、白血球数の減少やその他臓器への影響」などがありますので、様子をしっかり見てあげましょう。
・分子標的薬
抗ガン剤とは異なり、腫瘍細胞の持つ特徴的な性質を分子レベルでとらえ、それを標的として効率よく作用するように作られた薬です。犬の肥満細胞腫ではc-kitという遺伝子に異常があると肥満細胞の増殖が止まらなくなり、それが肥満細胞腫の発生要因になっている場合があります。
この遺伝子の働きを抑制する薬を使用することで、肥満細胞腫の原因になる細胞の増殖を抑制することができます。
犬の肥満細胞腫に効果があるといわれている分子標的薬は「イマニチブ・トラセニブなど」があり、内服薬なので自宅投与で投与できます。
まとめ
肥満細胞腫は皮膚にできる腫瘍の中でも高い割合で発生します。普段からしっかりチェックして早めに診察を受けてください。腫瘍の治療は早めの切除が大事です。 文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。
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