2017年7月10日
【獣医師監修】犬の認知症の症状とは?予防や治療法について
監修にご協力いただきました!
鎌田健太郎先生
こもれび動物病院 院長
日本大学 生物資源科学部獣医学科獣医生化学研究室 卒業
2015年 こもれび動物病院を開院
[日本獣医がん学会所属 日本獣医麻酔外科学会所属 日本レーザー獣医学研究会所属]
予防接種で対策できる感染症が増え、食事の品質が向上したという背景などによって、犬の寿命も大きく伸びました。大切な愛犬との生活がより長くなるのは非常に嬉しいことですが、それと同時に“犬の認知症”という新たな問題が起こりました。
実際に認知症を発症する年齢は犬種や体格によって様々ですが、平均的には12歳から発症することが多いといわれていて、特に柴犬をはじめとした日本犬に多くみられます。
もくじ [非表示]
- 1 犬の認知症でみられる5つの症状
- 1.1 見当識障害
- 1.2 社会的相互作用の変化
- 1.3 睡眠サイクルの乱れ
- 1.4 しつけ・活動性
- 1.5 食事と排泄
- 2 犬の認知症の治療(対処療法)について
- 2.1 見当識障害の対処療法
- 2.2 学習して身についていたしつけを忘れる(粗相を繰り返す)
- 2.3 睡眠サイクルの乱れ
- 2.4 性格の変化
- 2.5 食欲の変化
- 3 犬の認知症の治療法・予防と対策について
- 3.1 睡眠サイクルのコントロールをしよう
- 3.2 人と犬も、認知症の予防に効くとされる栄養素は同じ
- 3.3 愛犬の生活環境を整える(寝たきり・徘徊など)
- 3.4 コミュニケーションをとる(体をマッサージしてあげる)
- 4 まとめ
犬の認知症でみられる5つの症状
見当識障害
社会性や周囲環境とのかかわりの変化
睡眠―覚醒周期の変化
活動量や内容の変化
不適切な排泄
社会性や周囲環境とのかかわりの変化
睡眠―覚醒周期の変化
活動量や内容の変化
不適切な排泄
犬の認知症を特定する検査は今のところありませんが、次の項目のなかでいくつか該当するものがあれば、「認知症の可能性あり」とされます。
見当識障害
例)・家の中で迷子になる
・自分の寝床に戻れなくなる
・慣れた散歩コースでも戸惑うようになる(道を忘れる)
・部屋の角にはまり込み方向転換(後退)ができなくなる
社会的相互作用の変化
例)・慣れた人間、知り合いの犬と遊ばなくなる
・多頭飼いの場合、そのパートナーと遊ばなくなる
・飼い主のもとに来なくなる(呼びかけに反応しない)
・物音や接触などの刺激に敏感になる
睡眠サイクルの乱れ
例)・昼夜が逆転し、夜中に起きていたりする
・夜鳴きをする
しつけ・活動性
例)・訓練でできていたことが突然できなくなる
・家の中を目的もなく徘徊する
・同じ場所をクルクル回る
食事と排泄
例)・食欲が増加したり減少したりする(いずれにせよ極端になる)
・粗相をくりかえす
これらの症状は加齢に伴い徐々に脳機能が衰え、認識機能が低下することで発症します。まず飼い主が異変に気づくのは、1日中ボ~っと一点を見つめ飼い主の呼びかけに反応しなくなることから「おかしいな」と思うことがあるようです。
認知症に限らず、愛犬が高齢になるにつれて、どうしても身体的な異変やこれまでになかった症状が現れることがあります。他の病気の可能性も含めて、まずは獣医師に相談することが大切です。
犬の認知症の治療(対処療法)について
見当識障害の対処療法
慣れ親しんだ場所や行き慣れた散歩コースで迷子になったり、空間認識できなったりすることを“見当識障害”といいます。例えば同じ場所をクルクル回る、落ち着きがなくなり部屋中を徘徊するようになります。このように落ち着きがなくなる理由として「不安」が大きな要因の一つとなっていることがわかっています。
聴力の低下や視力の低下によって「聞こえない」「見えない」という状況に陥ることは、人と同様に犬だってとても不安になります。常に呼びかけながら優しく体に触れて安心させてあげてください。
認知症が進行すると、部屋の角にはまり込み後退できなくなります。その場合は部屋の角(コーナー)にはまり込めないように柵をしたり、愛犬が入り込んでしまう隙間自体を無くすといった工夫をしましょう。
もちろん、愛犬の怪我の原因となるような危険物は置かないようにしてください。その他、愛犬にとって日々の生活の中で脳に刺激を与えてあげるといいと思います。
場合によっては刺激がストレスになる場合もありますので、獣医師に相談の上、実施すると良いでしょう。
例)
・毎日の散歩コースを変えてみる
・他の犬と遊ばせてみる
・愛犬の好きな玩具で遊ぶ
・子犬の頃のしつけ(勉強)を初めからする
・愛犬と旅行に行く
学習して身についていたしつけを忘れる(粗相を繰り返す)
散歩でしか排泄しなかった愛犬が室内で粗相を繰り返すようになるケースがあります。粗相の原因は体力や筋力の衰えが関係しています。排便の時に、足腰が弱り踏ん張る力が衰えた事で便を出し切ることがうまくできなくなります。その場合は室内での排泄(トイレ)に慣れさせるとよいでしょう。
また、肛門周囲の筋肉が落ちてしまい排泄が困難になる病気もあります。少しでも様子がおかしいときは、かかりつけの動物病院で診察を受けてください。
室内犬でも排泄(トイレ)が突然できなくなることもあります。
この時、排泄(トイレ)に失敗したからといって強く叱らないようにしてあげてください。老犬にとって「叱られる」ということは、辛い思いはしても「覚える」ことにはつながりにくく、愛犬にとって大きなストレスになります。
トイレの場所を増やす、ペットシーツや新聞を部屋に敷いて汚れてもいい環境作りをしてあげると、飼い主も掃除をしやすくなるのでおすすめです。その他にオムツを活用する方法もあります。
睡眠サイクルの乱れ
犬の認知症の症状の中でも、夜鳴きは飼い主にとって大きな悩みの一つです。昼夜逆転してしまい昼間に睡眠をとっていることが原因であれば昼間に散歩へ出かけたり遊んだりと寝かせないようにすることで改善されることもあります。
夜鳴きが増え、ご近所にも迷惑がかかるほど酷い場合には、まず獣医師に相談し対応方法を検討しましょう。
性格の変化
認知症の症状のひとつとして、おとなしい性格だった愛犬が急に攻撃的になるといった性格の変化が現われることもあります。加齢に伴った聴力や視力の低下などによる不安が大きく関係していることが多く、突然体を触る、愛犬の背後から抱きかかえるといった行動が愛犬の不安を増長し、噛みつくという行動にでてしまうことがあります。
まず愛犬の正面から優しく話しかけたり名前を呼んだり、愛犬の鼻に手を近づけ飼い主の匂いだと確認させてから触ってあげることで、攻撃的な性格も少し治まります。
それでも攻撃してくる場合には、厚手の毛布などで愛犬を優しく包んであげると愛犬も落ち着きます。毛布も飼い主の匂いがついた物や愛犬がいつも使用している物を使うとよいでしょう。
また、その際には手に軍手を二枚重ねるなどして、自分自身がケガをするのを防ぎましょう。
攻撃的な性格の変化の真逆で「甘え」がでてくることもあります。先にお話したように愛犬の行動の変化には「不安」が関係しているといわれており、この場合は“常に飼い主の体の一部に密着していないと不安”という状態になっている可能性があります。
そんな時は可能な限り甘えさせてあげてください。外出する時は飼い主が使用しているハンカチやタオルなどを愛犬の側に置いておくと飼い主の匂いで安心できます。
食欲の変化
犬の認知症には、「満腹中枢機能」の低下が原因で食欲が増したり、減少したりと食事量にムラが現われるケースもあります。食欲が増す場合は、食事やおやつの量を増やすと肥満になる、お腹を壊す、嘔吐する、と胃腸に負担をかけるので、一日の食事量を計り3回から4回分に小分けにして空腹の時間を少なくしてあげると落ち着きます。
反対に食欲が低下し、食べない場合は日中の活動やメニューを工夫することが大切です。
運動せずにじっと寝ているだけでは空腹にならないことや、空腹自体を忘れている可能性もあります。食べなければ衰弱していく一方なので愛犬の好物やいつもと違うドッグフードに変更する、といった工夫をしてみましょう。
他にも飼い主の手の平に乗せる、すこし温めて与えるなどすれば食べてくれることもありますので、一度試してみると良いでしょう。
犬の認知症の治療法・予防と対策について
犬の認知症の特効薬は、今の獣医医療において無いのが現状です。ここでは老犬のケア方法、また認知症の症状にあわせた対処法などをお話しします。睡眠サイクルのコントロールをしよう
夜鳴きが酷い場合などは上記にも記載してあるように、まずは獣医師に相談した上で対応方法を検討しましょう。また、昼間はなるべく寝かさないように生活のリズムを整えることも一つの方法です。散歩にいき日光を浴びることで脳に刺激を与え体内時計を調節できます。
人と犬も、認知症の予防に効くとされる栄養素は同じ
人と同様に、犬認知症の予防法(進行を遅らせる目的)としてEPA(エンコサベンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などを含むサプリメントやフードを与える方法が挙げられます。高齢期に入ったら与えていくことで、認知症の進行や発症を抑えられるといわれています。
あくまでもサプリメントなので目に見える効果はみられないかも知れませんが、長期間それらの栄養素を与え続けることで脳の細胞を活性化し、認知症になりにくい体質づくりをサポートしてくれると言われています。
DHAやEPAを含む処方食もあるので、興味がある方はかかりつけの獣医師に相談の上で取り入れることをおすすめします。
愛犬の生活環境を整える(寝たきり・徘徊など)
寝たきりの場合は「床ずれ」に注意
愛犬が寝たきりになった場合は加齢と共に筋肉量が落ちてしまい、骨が目立つようになります。そうするとクッションや布団と体の摩擦によって褥瘡(床擦れ)になってしまいます。
時間ごとに寝かせる向きを変えたり、床擦れがおきやすい場所(腰や足の付け根・肩・頬や顔)にタオルを重ねて当てたり、商品を梱包するエアーキャップ(プチプチ)を愛犬の体に合わせて切って当て、動いてもズレないように包帯や医療用テープなどで固定する方法がコストも低く抑えられるのでおすすめです。
床ずれ防止用のサポーターや、低反発の介護用マットを利用する方法もあります。
床ずれの初期症状は皮膚内部で起きるため、毛に覆われていることもあり飼い主の目ではわかりにくいことも多いようです。愛犬が寝たきりになった時は皮膚の状態をこまめにチェックしておきましょう。
動きたがっている様子があれば飼い主がサポートを
寝たきりになっても「動きたい」という気持ちがある犬は多いようです。動きたいと要求する時は、体を起こし愛犬のお腹にタオルで固定して持ち上げると前足を動かして歩こうとします。歩かせてあげることで要求鳴きがおさまることもあります。愛犬の徘徊を放置するのは意外とキケン
「同じ場所をぐるぐる回っているだけだから……」と徘徊を放置するのは危険です。頭や身体を知らず知らずのうちに家具にぶつけてしまい、場合によっては怪我を負うケースもあります。段ボールやお風呂のバスマット(人用)を丸くして筒を作りサークルに設置してあげましょう。そうすればクッションで怪我を防止できますし、愛犬も思う存分ぐるぐる歩き回れます。
コミュニケーションをとる(体をマッサージしてあげる)
普段から愛犬との関わる時間を増やすことで、外的刺激により脳を活性化できます。飼い主との関わりが愛犬にとって一番の安心感を得られる時間であり、認知症の特効薬といっても過言ではありません。マッサージをすることで、脳における血液循環量の増加にもつながります。また、動かなくなった足は関節が固まり関節炎や痛みを伴うので、無理のない範囲で曲げ伸ばしの運動や筋肉のマッサージをしてあげましょう。
愛犬に毎日触れることで、ちょっとした愛犬の変化にも気付くことが出来て、健康管理にも繋がります。
まとめ
近年、犬も長寿化に伴って犬の認知症も増加しています。愛犬の変化に戸惑うことも多いでしょうし、寝たきりになった場合は排泄や食事のお世話などの介護が大変になるかもしれません。
一人で抱え込んだり、愛犬の状態に必要以上に悲観的になったりしないよう、今後の不安や心配ごとは動物病院で相談してみましょう。
獣医師に今の状態を聞いてもらうこと、また自宅でのケアについて指導を受けることも愛犬と向き合う心の準備だと思って下さい。
文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。
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