2017年6月9日
【獣医師監修】犬が下痢を起こした時の原因と対処法
監修にご協力いただきました!
奥田一士先生
ゆめ動物病院 院長
2003年 日本大学生物資源科学部獣医学科卒業後、都内動物病院、日本獣医生命科学大学動物医療センター研修医
2011年4月17日 ゆめ動物病院開設
[公益社団法人東京都獣医師会大田支部 大田獣医師会所属]
犬は人のように言葉で伝えることができないため、愛犬の体調が悪い時、飼い主さんが気付くことができるサインの一つが「うんちの状態」です。うんちの形・色・柔らかさ・におい・血液の有無など、うんちには様々な情報が詰まっています。
うんちの異常で一番みられるのが「下痢」です。「下痢」といっても、様々な症状、様々な原因があります。どんな下痢なのかを見極める事が良くなるための第一歩です。
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犬の下痢の症状はどんなものがある?
「下痢」は症状や原因によって、「急性小腸性下痢」、「急性大腸性下痢」、「慢性小腸性下痢」、「慢性大腸性下痢」に分けられます。急性型”と“慢性型”の違い
“急性”は急激に症状が現れるもので、多くの場合、短期間の対処療法の治療となります。“慢性”とは、さまざまな対処療法を行っても治りが悪いような状態を言います。急性の下痢ももちろんですが、慢性の下痢の場合は原因を究明し、正しい治療を受ける必要があります。小腸性下痢とは
小腸の役割は、酵素を分泌することで食べ物の消化を助けること、栄養素や水分を吸収することです。そんな小腸が原因で起こる下痢のことを指します。<特徴>
・1回のうんち(便)の量が増える
・うんち(便)が黒くなる
・吐き戻しがみられる
・体重減少が認められる
・1回のうんち(便)の量が増える
・うんち(便)が黒くなる
・吐き戻しがみられる
・体重減少が認められる
大腸性下痢とは
水分を効率よく吸収し、固形のうんち(便)をつくる役割を担う大腸が原因となり起こる下痢です。<特徴>
・うんち(便)の回数が増える
・1回のうんち(便)の量は少ない
・うんち(便)に新鮮血がつく
・しぶりがみられる
・うんち(便)の回数が増える
・1回のうんち(便)の量は少ない
・うんち(便)に新鮮血がつく
・しぶりがみられる
すべての症状が現れるわけではないですが、どのようなうんち(便)をしているか観察することは原因追究のヒントになり、それが治療に繋がっていきます。獣医師に状態を正しく伝えるためにも、愛犬のうんち(便)に異常があればその状態をメモしておくといいでしょう。
愛犬がこんな下痢をしていたら要注意!
仔犬が下痢をしていて、元気がない
仔犬が下痢をする原因として多いのは、寄生虫性、ウイルス性などの感染症です。特に、ウイルスが原因で下痢をしている場合、下痢以外に嘔吐、食欲不振を伴っていることが多いので、早期の治療が必要になります。少し様子を見ていると、脱水症状が悪化したり、低血糖状態になったりして、命の危険にさらされることも少なくありません。
また、感染症ですので、同居に他の犬がいる場合は隔離をすることで、感染を防ぐことができます。
下痢以外の症状もある
急性かつ下痢しか症状が現れない場合は、一過性の下痢である場合が多く、絶食や食事管理をきちんとすることで治ることもあります。しかし、下痢以外に、嘔吐や食欲不振、元気消失が伴っている場合は、お家での食事管理だけでは治すことができないケースも多くなります。そんな時は獣医師に相談して、きちんと原因を追究した上で治療にあたった方が良いでしょう。治っても下痢を繰り返す
「治療をすると一旦良くなるけど、また下痢を繰り返す……」という場合は、何か病気が隠れている可能性があります。状況によっては、血液検査・レントゲン検査、エコー検査、内視鏡検査など様々な検査をすることで原因が分かることがあります。下痢は体質だと決めつけず、繰り返す場合は動物病院でしっかり原因を追究してもらいましょう。犬の下痢の原因は?そして治療法は?
食事性
食べ物が要因で起こる下痢で、急性小腸性下痢の症状を示すことが多いことが特徴です。ゴミ箱をあさったり、ご家族が自分たちの食べているものをあげたり、普段食べているフードから違うフードに急に切り替えたりすることが原因になります。
食事性の下痢の治療法
食事が原因で引き起こされる下痢では、腸内細菌叢が乱れていることが多いため、整腸剤と下痢止めが必要になることもあります。人の食べ物はあげない、フードを新しいものに切り替えるときは1週間以上かけて徐々に切り替える、といった工夫をするだけで食事性による下痢は防ぐことができます。ただし、食物アレルギーが原因で下痢が起こっている場合は、アレルギーの原因となる成分が入っていない食事に切り替える必要があります。アレルギーに対する食事は、療法食になります。食物アレルギーが疑われる場合は獣医師に相談してみてください。
ストレス性
人間は大きなストレスがかかると下痢を起こすことがありますが、同様に犬もストレスが原因で下痢になることがあります。例えば、ホテルに預けられた、家に多くの人が来たなど、普段の環境とは違う状態に晒されたときに、腸内の細菌叢が乱れ下痢になってしまうのです。ストレス性の下痢の治療法
お家でのケアで治ることも多いですが、長く続く場合は動物病院に行く必要があります。寄生虫性
寄生虫が腸管に寄生することで起こる下痢です。寄生虫がどこにいるのかによりますが、多くの場合急性小腸性下痢、急性大腸性下痢の症状を示します。しかし寄生虫の種類によっては慢性の経過をとる場合もあり、飼い主が自力で判別するのは難しいでしょう。若齢時に急性の下痢を起こす場合は、寄生虫による感染が起こっている場合が多いので注意してください。
原因となる寄生虫としては、蠕虫類(犬鉤虫、犬回虫、線虫など)や原虫類(ジアルジア、トリコモナス、コクシジウム)、鞭虫類があります。それぞれ、検出率や検査費用は異なりますが、うんち(便)の検査で原因が何か分かる場合もあります。
寄生虫性の下痢の治療法
例えば、お住いの環境によって野山で遊んだりすることが多い場合は、野生動物のフンと接触する機会があったり、カエルやヘビなど寄生虫を媒介する生き物と接触する場合がありますので、感染リスクが高い生活環境にある場合は定期的に駆虫薬を投薬する「定期駆虫」という方法もあります。まずは、愛犬の状態や環境に応じて獣医師へご相談されることをおすすめします。
細菌性
消化管内には、様々な細菌が自然にいます。その中には病原性を持つ細菌がおり、その細菌が原因で下痢が引き起こされます。病原性が知られているものとしては、カンピロバクターやクロストリジウムがあります。元気な犬の腸でも見られることがある細菌です。細菌性の下痢の治療法
治療は状況に応じて、抗生剤の内服が必要になります。ウイルス性
ウイルス感染が原因で引き起こされる下痢です。急性の小腸性下痢の症状を示すことが多いです。その代表的なウイルスの一つとして「パルボウイルス」があります。深刻な症状を示すことが多く、特に12週齢未満で感染した場合、嘔吐・血様の下痢、食欲不振、脱水といった症状を示し、最悪の場合亡くなることもあります。このウイルスは強い感染力を持っているため、集団で感染することもあります。
その他のウイルスとしては、ジステンパーウイルス、コロナウイルスがあります。
ウイルス性の下痢の治療法
基本的には、治療は症状に合わせた対処療法しかありません。ワクチンで予防することができるので、定期的なワクチン接種が大切になってきます。炎症性腸疾患
近年になって犬で認められ始めた病気のひとつで、消化管の粘膜に炎症が起き、慢性小腸性下痢の症状を示すことが多い病気です。腸管内の細菌や食べ物に対する身体の過剰な免疫反応が要因ではないかとも言われていますが、原因がはっきりとは分かってはいません。診断は難しく、エコー検査や内視鏡検査など複数の検査を行い、総合的に診断していきます。
炎症性腸炎による下痢の治療法
食事を低アレルギー食に替え、抗炎症療法の薬、整腸剤や下痢止めなどを用います。治療が長期化することも多く、薬を一生涯飲み続けないといけないケースもあります。腫瘍
人の病気と同様に、犬の腸管にも腫瘍ができることがあり、良性のものもあれば悪性のものもあります。腫瘍ができる場所にもよりますが、慢性小腸性下痢や慢性大腸性下痢の症状を示す事が多いです。腫瘍の種類としては、リンパ腫、平滑筋肉腫、腺癌、肥満細胞腫などがあります。
腫瘍による下痢の治療法
それぞれの腫瘍の種類によって異なり、抗がん剤が効くもの、外科的切除が第一選択になるものなど、治療もさまざまです。どの腫瘍も共通して言えるのは、早期発見がなによりも重要であるということです。腫瘍はできた当初は症状を示さないことが多く、悪化してから症状を示すことも少なくありません。
多くは慢性経過をたどりますので、何度も下痢を繰り返す場合や、食欲不振や元気消失・嘔吐などの症状を伴っている場合などは、積極的に検査を受けさせてあげましょう。
内臓性
下痢をしていると腸管の問題だけのような印象を持ちますが、腸管に原因がなくても、他の臓器に病気があることで下痢を引き起こすケースもあります。代表としては、膵炎や肝胆道系疾患、副腎皮質機能低下症が挙げられます。内臓性の下痢の治療法
他の臓器からの影響で起こっているので、当然要因となっている病気の治療が第一優先となります。下痢を継続的に繰り返す場合はその旨を獣医師へ詳しく伝え、腸管以外に要因がある可能性を視野にいれてもらえるようにしましょう。このように、ひとくちに「下痢」といっても原因はさまざまです。その原因がきちんと分かれば正しい治療ができ、早めの完治に繋がります。
愛犬が下痢をしている時にお家でできるケアとは?
愛犬の下痢がどのような原因で引き起こっていたとしても、治療の基本軸となるのは食事管理です。しかし、いずれの方法も獣医師の診断を受け相談したうえで行ってください。
24時間の絶食
急性の下痢の場合は絶食時間を設けてあげると良いでしょう。消化管の粘膜の細胞のターンオーバーは3~5日と言われています。24時間腸管を休めてあげることで、腸管の細胞の再生を促すことができます。しかし、成長期の仔犬に絶食させるとかえって大きな負担が生じることがあるので要注意です。絶食することで、低血糖や脱水症状が悪化し、命の危険にさらされる場合もあります。
消化の良い食事を少量頻回で
下痢は多くの場合、消化管の粘膜がダメージを受けます。つまり、消化管における食べ物を消化する能力や、栄養素の吸収の能力が著しく低下している可能性が高いのです。そのため多くの食べ物が1回に入ってきても十分な消化・吸収ができません。絶食後や、症状が軽く絶食時間を設ける必要のないような下痢の時は、消化の良いご飯を少量・回数多めであげてください。普段、ドライフードをメインであげている場合は、そのドライフードをお湯でふやかしてあげるだけでも、消化・吸収を助けてあげることにつながります。
水分はしっかりと
下痢になっている時は腸管で吸収されるはずの水分がそのままうんち(便)と一緒に出ており、身体は脱水状態に近くなります。お水は十分にあげてください。お水を自発的に飲ませるのは難しいので、あまり水分をとってくれない場合はご飯に水分を混ぜてあげるのも一つの方法です。また、缶詰やパウチなどの水分量が多めのお食事に変えてあげるのも良いかもしれません。
しかし、普段食べていないものを急に与えることで下痢になることもあるので注意しましょう。
最近では、犬用のスポーツドリンクもあります。効率的に水分が摂取できるので飲ませてみてもいいかもしれません。
食事を変更した時に起こった下痢なら…
新しいフードに変えた時に下痢になってしまった場合は、すぐに以前食べていたご飯に戻してください。再び新しいご飯に切り替えたい時は、1週間程度かけて徐々に切り替えていくのがお勧めです。療法食をおすすめされたら?
病気の種類、下痢の状態によっては獣医師から療法食(獣医師の処方が必要な食事)をお勧めされることがあると思います。例えば、うんち(便)検査をした際に未消化な部分が多い場合には高消化性のご飯、繊維によって下痢を固めたい場合は高繊維食のご飯、脂肪分を抑えた方がいい場合は低脂肪のご飯などがあります。病気の種類によっては療法食を食べさせてあげることで、治療がスムーズにいくこともあります。
まとめ
一口に下痢といっても、症状も原因もさまざまです。お家で様子をみていたらすぐ治る場合もあれば、そうではない場合もあります。犬の健康を守れるのは飼い主しかいません。言葉でコミュニケーションがとれない分、「今日のうんち(便)の状態はどうかな?」「吐いていないかな?」、「食欲・元気はいつも通りかな?」と意識してみることで、小さな変化にも気付いてあげることができると思います。
そして不安に思う点があれば必ず動物病院での診察を受けるようにしましょう。
文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。
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