2017年6月13日

【獣医師監修】犬の避妊手術の方法と適正時期とは?

監修にご協力いただきました!

北里大学獣医学部卒業

2016年 新座えのもと動物病院を設立、院長に就任(現任)

避妊手術はやった方が良いとよく耳にするけれど「手術や麻酔は少し怖いし……」と迷う飼い主は多いのではないでしょうか。

健康な身体にメスを入れて避妊手術をするということに抵抗がある、という意見もあります。

しかし避妊手術は“あらゆるトラブル”から愛犬を守るという意味合いで勧められているのも事実です。

飼い主としては、避妊手術のメリット、デメリットをしっかり理解した上で、自分自身も納得できる選択をされたいのではないでしょうか。

今回は避妊手術を決める前に知っておきたい情報をお話しします。

愛犬に避妊手術を行うメリット

こちらを見つめるダックスフンドの子犬 まず、犬に対して避妊手術を行うことのメリットをお話します。メリットとしては病気の予防、“望まれない”繁殖の防止、愛犬・飼い主の負担軽減が挙げられます。

病気の予防

避妊手術の一番のメリットは、「病気の予防」です。子宮卵巣の病気、乳腺の病気を予防することができます。

子宮卵巣の病気としては、子宮蓄膿症、子宮水腫、子宮内膜炎、子宮の腫瘍、卵巣の腫瘍などがあります。

子宮蓄膿症

子宮蓄膿症は犬の子宮の病気の中でも非常に多くみられる症例で、子宮蓄膿症は文字通り子宮の中に‘膿’が溜まってしまう状態です。

この病気は緊急疾患のうちの一つで、最悪の場合は命に関わる事態となります。

発生率は加齢とともに増加し、9歳齢以上で66%以上になるとも言われています。

症状はさまざまで、陰部から血膿状のおりものが出たり、食欲・元気がなくなったり、水を飲む量が増えたり、下痢や吐き戻しが起こったりします。

子宮がパンパンに膨らんでいる場合は、お腹が膨れてみえることもあります。

また、本来無菌状態の子宮に膿が溜まっている状態である子宮蓄膿症は、その毒素が体中を巡っているため、この毒素によってショックを起こしてしまう可能性もありますし、多くの合併症が起こることもあります。

ショックや合併症のせいで、命を落としてしまうケースもある恐ろしい病気です。

子宮蓄膿症は、ホルモンが大きく関わっており、発情が終わって約2か月後の発情休止期に多いと言われています。

ですので、その時期に上記の症状がみられた場合、子宮蓄膿症の可能性がありますので、みられた場合は早急に動物病院に行って、診てもらう必要があります。

子宮水腫

子宮水腫とは、子宮に粘液が溜まっている状態の病気です。

症状としては、子宮が腫れる事で腸管などが物理的な圧迫を受けて、吐き戻しや食欲不振がみられることもありますが、無症状なことも多いです。

この病気は、レントゲン検査やエコー検査で、子宮蓄膿症と完全に区別することは不可能なので、手術をして子宮卵巣を全摘出した時に分かることが多いと言われています。

子宮内膜炎

子宮の中に細菌が入り込むことで子宮に炎症が起きる病気を子宮内膜炎といいます。

症状としては、不正出血が陰部から見られたり、元気・食欲が無くなったり、発熱したりします。

子宮内膜炎を放置しておくと、子宮蓄膿症になってしまう可能性もあるので、早期に治療してあげる必要があります。

子宮の腫瘍

子宮の腫瘍はあまり多くありませんが、その中でも多いのは良性の子宮筋腫です。

卵巣の腫瘍

卵巣にも腫瘍がみられることがあります。卵巣腫瘍の中で一番発生率が多いのが、顆粒膜細胞腫です。

この腫瘍は小さなものから、直径10cm以上になる大型のものまでさまざまですが、その多くは良性です。

“望まれない”繁殖の防止

年々、全国の愛護センターでの犬の殺処分数は減ってはきているものの、平成27年の時点では、約15,000頭余りの犬が殺処分されています。

そのうちの約20%が若齢の犬達です。

このように、“望まれない”繁殖のために産まれ、引き取り手に出会えず、殺処分されている犬は多くいます。

このような可哀そうな動物たちを減らすためにも、避妊手術は有効です。

愛犬・飼い主の負担軽減

人間とは違い、犬の生理は1~3週間ほど続きます。

その期間中は行動範囲が制限されたり、身体に違和感を感じたり、などの変化に少なからず精神的な負担が増えることでしょう。

避妊手術によってこうしたストレスは軽減されますし、飼い主も「ドッグランで気づかぬうちにほかの犬と交配してしまうかも」などの不安から解放されます。

犬の避妊手術の適正時期とは?

おやつを凝視する二匹のフレンチブルドッグ
避妊手術をしようと考えていて、気になるのが適正な時期ではないでしょうか。

どの年齢で手術を行っても、‛卵巣・子宮の病気の予防‘という意味合いはありますが、乳腺腫瘍の発生率を下げるためにはある程度、早期に手術を行った方がよいでしょう。

また、オスにはないのですが、メスの場合には手術の時期にも注意点があり、女性ホルモンが活性化していない無発情期に手術をするのが望ましいと言われています。

発情期はホルモンの影響で血管が膨張しており、無発情期より出血量が多くなるという点が心配されるためです。


避妊手術が犬に与える影響はどんなものがある?


性格の変化

避妊手術を行うことで、発情期に伴う性格の変化がなくなることがあげられます。しかし、必ずしもプラスの影響ばかりではありません。

雄が去勢手術を行った場合は攻撃性が抑えられるというケースもありますが、メスの場合は女性ホルモンの分泌がなくなることで逆に攻撃性が高まるケースもあると言われています。(もともと攻撃性がある場合)

このように性格の変化は、個体差が非常にあります。

体質の変化

避妊手術を行う事で代謝が落ち、同じ量のカロリーを摂取していると肥満になることが多いです。

避妊手術後は、避妊手術した子用のご飯に切り替えたり、量を減らしたりなどの工夫が必要です。

避妊手術は、健康な愛犬の身体にメスを入れることで行われ、その際は必ず全身麻酔をかけます。

全身麻酔による手術は、犬の身体にかかる負担を避けることはできません。

手術後、元気・食欲がなくなったり、下痢や嘔吐などの症状が出てきたり、痛みが続くなど、体調不良が数日続くこともあります。

また、麻酔は100%安全が保障されているものではありません。

手術の前に、多くの場合検査が行われ、その検査に問題ない場合に手術は行われますが、予期せぬ事態が起こることもあります。

手術に関わるすべてのものがその原因となります。例えば、薬との相性が悪く、ショックを起こす場合もあります。

麻酔のリスク以外にも、手術自体のリスクも存在します。

傷の治りが悪かったり、手術に使用した縫合糸が原因となって膿瘍やしこりが形成されたり、手術で結んだところが術後に緩むことで出血を起こしたり、子宮の断端に炎症が起こったり、尿失禁になったりなどがあげられます。

避妊手術には多くのメリットがありますが、もちろん今お話ししたようなデメリットもあります。どちらも理解をしておくことは大切です。

避妊手術の方法と費用について

片耳が垂れているチワワとパグのミックス犬
避妊手術は、これまでお話してきたように全身麻酔をかけて行われます。
その方法は、卵巣摘出術と子宮卵巣全摘出術の2通り存在します。それぞれのやり方には、それぞれのメリット・デメリットがあります。

卵巣摘出術

卵巣摘出術とは、卵巣のみ摘出し、子宮は体内に残す方法です。

犬に発生する子宮の病気の多くはホルモンが関連しているので、ホルモンを出す卵巣を摘出することで子宮の病気の多くは予防できます。

この手術の方法では、傷口が小さくなり、麻酔時間も短くなるというメリットがあります。

しかし、子宮を体内に残すことから、ホルモンが関連していない子宮の腫瘍が発生する可能性はあります。

子宮卵巣摘出術

一方、子宮卵巣摘出術とは、子宮・卵巣を全て摘出する方法です。子宮も全て摘出することから、子宮の腫瘍も含めて予防が可能となります。

デメリットとしては、傷口がやや広くなることと、切除を行った子宮の断端に術後炎症が生じ、断端腫というしこりになることがあげられます。

また、近年ではお腹を開けずに、腹腔鏡で避妊手術を行う病院も出てきました。

どのような方法で手術を行うかは、手術をする犬の状況や担当する獣医師の経験や考え方によります。

手術を行う場合、飼い主が納得する方法で行うのが良いと思います。

犬の避妊手術の費用に関しては、病院によって大きく異なります。

また、自治体によっては、助成金を出しているところもあるので、一度問い合わせてみると良いと思います。

犬の避妊手術後のケアについて

元気な犬と女性が散歩している様子
無事に手術が終わって気になることは、その後のケアですよね?

まず、抜糸までの間に気を付けたいのは、傷口の保護と散歩についてです。

抜糸のタイミングは縫合の方法によって様々ですが、多くは1~2週間後が多いです。その間、傷口を舐めたりしないようにエリザベスカラーを装着したり、服を着たりする必要があります。

また、散歩に関しては、3~5日間は控えた方が良いと言われることが多いです。詳しくは担当の獣医師に聞くのが良いと思います。

無事抜糸が終わって次に気になるのは、シャンプーをして良いタイミングです。傷口の状態にもよりますが、抜糸後1~2週間後にはできるようになります。

犬の体調をみて、問題なさそうだったら、シャンプーをしてあげて下さい。

長期的なケアとして必要なのは、「食事管理」です。避妊手術後、代謝が落ちることで多くの犬が肥満になることが知られています。

手術前と同じ食生活をしていると、いつの間にか太っていたという事にもなりかねません。

肥満させないために、食事の量を減らしたり、避妊手術をした犬用のご飯に変えるなどの工夫が必要です。

まとめ

数十年前と比べると、若齢期に避妊手術をすることがスタンダードになってきています。

「みんなやっているから、しないといけない」という考え方でするのではなく、メリット・デメリットをきちんと理解した上で手術をするか決めてください。

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文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。


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