2018年1月9日
【獣医師監修】犬のフィラリア症について~原因・症状・治療~
監修にご協力いただきました!
滝田雄磨先生
SHIBUYAフレンズ動物病院 院長
東京都立川市出身
国学院大学久我山高校 卒業
麻布大学獣医学科 卒業
国立市ふく動物病院 勤務
日本獣医皮膚科学会 所属
東京農工大学皮膚科 研修医
渋谷区 SHIBUYAフレンズ動物病院 院長
春にワクチン接種のために動物病院に行く際、フィラリアの予防も一緒にする方は多いのではないでしょうか。
数十年前までは、フィラリアで命を落とす愛犬も少なくありませんでしたが、今では薬によって予防できる病気の一つになりました。
今回は、このフィラリア症について詳しくお話します。
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犬フィラリア症とは?
犬フィラリア症とは、フィラリア(糸状虫)という寄生虫の一つである犬糸状虫(学名:Dirofilaria immitis)が犬に感染することで循環器にさまざまな影響を及ぼす病気です。犬糸状虫は、乳白色でそうめんのように細長く、平均の大きさはオスで17.2mm、メスで27.8mmほどの寄生虫です。
主な宿主(寄生される動物)は、肉食目のイヌ科(犬、キツネ、タヌキなど)、ネコ科(猫、ヤマネコなど)、イタチ科(フェレットなど)ですが、人から検出された例もあります。
犬糸状虫は、主に肺動脈(心臓から肺に向かう大きな血管)と右心室(肺に血液を送る心臓の大きな部屋)に寄生しますが、右心房(全身の血液が心臓に還ってくる心臓の部屋)と大静脈(全身から心臓に血液が還る時の大きな血管)などから虫体がみつかることもあります。
フィラリア症の診断方法
フィラリア症の診断は、血液検査です。成虫の抗原を検出する方法と、ミクロフィラリア(子虫)を検出する方法があります。もし、陽性だった場合は、状態を把握するためにレントゲン検査やエコー検査が行われます。
フィラリア症で見られる症状
犬フィラリア症は“心臓や血管に虫体が寄生すること”を指し、その影響でさまざまな症状が現れます。初期症状
・軽い咳が出る
・激しい運動ができなくなる
・少し元気がなくなり、散歩を嫌がったりするようになる
・激しい運動ができなくなる
・少し元気がなくなり、散歩を嫌がったりするようになる
この時期は、食欲は普通にあったり、遊ぶ元気もあったりなど、体調の変化に飼い主が気付かないケースも多いです。
中期症状
・慢性的に咳が出る
・元気や食欲が無くなる
・散歩などの運動を嫌がるようになる
・元気や食欲が無くなる
・散歩などの運動を嫌がるようになる
この時期には、飼い主から見ても犬の体調不良が目に見えて分かるようになります。
この段階で適切な対応ができているか否かが重要なポイントとなります。
末期症状
・元気や食欲がなくなる
・呼吸が苦しそうになる
・腹水がたまる
・運動した時に、失神する
・主要な臓器(心臓・肝臓・腎臓・肺など)が機能不全になる
・呼吸が苦しそうになる
・腹水がたまる
・運動した時に、失神する
・主要な臓器(心臓・肝臓・腎臓・肺など)が機能不全になる
この時期は既に“命に関わる重篤な症状が出る段階”だと考えて下さい。
大静脈症候群
・血色素尿(コーラ色の尿)
・咳
・呼吸困難
・散歩などの運動を嫌がるようになる
・低血圧
・咳
・呼吸困難
・散歩などの運動を嫌がるようになる
・低血圧
「大静脈症候群」とは、肺動脈に寄生していた虫体が「右心房」や「右心房と右心室」に突如移動し、全身状態が急激な悪化を起こす状態です。
発症のきっかけは不明ですが、何らかの原因で虫体が移動することで起こります。
肺動脈に寄生している時には症状がなかったとしても、右心房あるいは右心房と右心室に移動すると、心臓の拍動に伴って、虫体がワサッと団子状に動きます。
これにより、循環不全が起こります。
今まで症状があまり無かったのにも関わらず、突然このような症状が見られた場合、「大静脈症候群」になっている可能性があります。
このような状態になっている場合は緊急な対応が必要になることが多いので、すぐ動物病院で診てもらって下さい。
フィラリア症にかかる原因
犬フィラリア症は、蚊が媒介して感染が広がっていきます。媒介する蚊は、イエカ属やヤブカ属などの蚊で、日本全国で普通にみられる種類です。
感染経路
犬糸状虫に感染している犬を蚊が吸血した際に、ミクロフィラリアという犬糸状虫のメスが産んだ子虫が、蚊の体内に取り込まれます。体内での成長
蚊の体内の中で、L1~L3(第1期幼虫~第3期幼虫)に成長をします。第3期幼虫は、蚊の吻鞘部(口のような部分)に移動し、蚊が犬を吸血する際に、犬の体内に侵入していきます。
犬の体内に侵入した幼虫は、最初は皮下織や筋肉内などにとどまり、発育を続けます。
L5(第5期幼虫)まで発育したら、静脈内に侵入し、血流に乗って肺動脈に移動していきます。
肺動脈内で、成虫に発育し、メスはミクロフィラリアを産みます。
このミクロフィラリアが成虫となり、再度ミクロフィラリアを産めるようになるまでの期間は、7~8カ月です。
また、成虫の寿命は5~6年と言われています。
フィラリア症の治療法
フィラリア症の治療法は、外科的な治療法と、内科的な治療法の大きく分けて2通りあります。どの治療法もそれぞれリスクがあります。
外科的治療法
大静脈症候群や、肺動脈に寄生している虫体の数が多数である場合、病態が進行して肺に大きな負担がかかっている場合に、虫体を外科的に摘出する治療が適応されます。方法として、頚静脈(首の大きな静脈)を切開し、特殊な器具をそこから挿入していきます。
その器具を使って、X線透視下あるいはエコーガイド下で、虫体を1匹ずつ摘出していきます。
すべての虫体を完全に摘出することは難しいため、少数の虫体が残った場合は、術後の回復を待って、駆虫薬の投与を行う必要があります。
内科的治療法
内科的治療法には何種類かあります。犬フィラリア症の犬の状態を考慮した上で、選択していきます。成虫駆除を行う
肺動脈内の虫体を死滅させる方法です。2~3回の成虫駆虫薬を注射後、数週間以内に虫体は死滅します。しかし、駆虫により、死滅した虫体が肺動脈の奥に流れて、肺動脈血栓を形成し、肺への負担が一時的(1~数カ月)に悪化するので、この状態に耐えることができる犬が対象になります。
ボルバキア治療 ボルバキアとは、フィラリアに常在菌として保有されているリケッチア目ボルバキア属の菌を言います。
ボルバキアは、すべてのフィラリアにいるわけではありませんが、フィラリアの生殖器にもいるので、ミクロフィラリアにも受け継がれます。
ボルバキアは、ドキシサイクリンという抗生剤を長期間(約1か月)投与すれば、90%が除菌できると言われています。
ボルバキアが除菌されたフィラリアは、虚弱化していきます。
また、このドキシサイクリンによるボルバキアの治療には、幼虫の駆虫薬(一般に予防薬として処方されるもの)を同時に月1回、通年で投与することも必要です。
この治療法は、非常に緩徐的に治療ができるというメリットがあります。
しかし、成虫が駆除できるまでに数カ月~数年近くかかる犬もいるため、重症例ではその間に悪化し、かえって犬に大きい負担をかけてしまうケースもあります。
フィラリア症には、このようにさまざまな治療法があります。
しかし、どの治療法でフィラリア症が治ったとしても、血管や心臓、肺、腎臓などが受けた障害は残る可能性は高いです。
フィラリア症は予防が大切
フィラリア症がとても恐ろしい病気であることがご理解頂けたかと思います。
しかし、最初に触れたようにフィラリア症は予防ができる病気ですので、ここからはその予防方法についてお話ししたいと思います。
予防を始める前に血液検査を
また、予防するに際しては、事前に血液検査を行う事が推奨されています。
万が一、フィラリア症にかかっていることに気づかずに、予防薬を使ってしまった場合、虫体が一気に死滅し、ショックを起こすことがあります。
予防薬の投与期間は地域によって異なる
まず、フィラリア症に対するお薬の投与期間についてですが、これは地域によって異なります。
蚊によって媒介しますので、蚊の発生時期によって異なるというわけです。
一般的に、蚊が発生する1か月前から蚊が発生しなくなる月プラス1カ月の期間、予防が必要になります。
この蚊の発生時期は、HDU(Heartworm Development heat Unit)という蚊の体内でミクロフィラリアが成熟するために必要な積算温度の単位を算出することで、犬フィラリア症が感染する期間を推定する事ができます。
この推定期間をもとに、予防期間が地域によって決まっています。
予防薬の種類
予防法としては、滴下薬、経口薬、注射薬などがあります。
ほとんどの薬に含まれる有効成分のターゲットは、第3期幼虫か第4期幼虫です。
滴下薬(1ヶ月に1回)
1ヶ月に1回、皮膚に滴下する予防薬です。多くの薬において、ノミの駆虫薬も同時に入っていることが多いです。
滴下薬は、犬が舐めない肩甲骨付近の皮膚に薬を垂らすことで、有効成分が体内に入り、効果を発揮します。
薬の種類にもよりますが、滴下薬のため、投与の前後のシャンプーを控える必要がある薬もありますので、注意しましょう。
滴下薬の場合、飲み薬だと飲まない犬であっても、滴下をするだけなので簡単に予防する事が可能です。
経口薬(1ヶ月に1回)
1ヶ月に1回、飲ませる予防方法です。犬が食べやすいようにチュアブルタイプになっている薬も多くあり、美味しく予防ができます。
最近では、ノミ・マダニの予防薬も一緒に入ったものも出てきており、1個で様々なものが予防できるようになってきています。
注射薬(1年に1回)
1年に1回、注射をするだけで予防ができる方法です。
毎月の投薬だと、忘れてしまうこともあるかもしれませんが、この予防法なら動物病院に1回だけ行って注射を打ってもらうだけです。
動物病院によってどの予防方法を選択しているかは異なりますが、いずれにしても飼い主さんがご理解の上しっかり取り組むことが大切です。
最近では、飼い主の予防意識が高まり、以前に比べるとフィラリア症の犬は減りました。
しかし、まだまだフィラリア症で苦しんでいる犬は沢山います。
完全に室内で飼っているから、蚊は家に入って来ないから…という理由で、フィラリア予防をされない方もいます。
一度かかってしまったら、その犬は一生苦しむことになりかねません。
まとめ
フィラリア症は近年少なくなった病気の一つではありますが、見かけなくなったからといって「無くなった病気」というわけではありません。
誤った認識で予防を怠ってしまうと、大切な愛犬が苦しむことになります。
フィラリア症は、予防ができる病気です。正しい方法で、しっかりと予防をしましょう。
もし、今まで予防をしていなくて、今回触れたような症状がでている場合は、すぐに動物病院を受診するようにしましょう。
文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。
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