2017年7月4日

【獣医師監修】犬の子宮蓄膿症の症状はどう見分ける?

監修にご協力いただきました!

櫻井洋平先生

BiBi犬猫病院  院長

2008年3月 麻布大学獣医学部獣医学科卒業

2008年4月〜2013年11月 横浜市内動物病院勤務

2011年4月〜2015年3月 麻布大学附属動物病院 腎泌尿器科・外科 専科研修医として研修

2013年12月〜2015年5月 千葉県内動物病院勤務

2015年7月〜2016年2月 宮城県内動物病院勤務

2016年11月〜 仙台市にBiBi犬猫病院を開院

メス犬が体調を崩した時に疑われる、「子宮蓄膿症」という病気があります。

早期に避妊手術をする飼い主が増えているため、それに伴って子宮に関連する病気の発症は少なくはなってきましたが、なかには「愛犬の子どもが見たい」「避妊手術は身体に負担がかかるのではないか」など、さまざまな理由で避妊手術に至っていない方もいらっしゃることでしょう。

実際リスクもあるわけなので「避妊手術が絶対」とは言い切れないのも事実です。

しかし、子宮蓄膿症は命にかかわるケースもある病気で、早期発見と治療が重要となるため、避妊手術を考えていない方は特に知っておいて欲しい病気と言えます。

犬の蓄膿症の症状はどんなもの?

うつ伏せの犬 犬の子宮蓄膿症の場合、初期は無症状なことが多いですが、病態が悪化するにつれて、下記のような症状がでてきます。

・発情期終了後に膿(血膿)のようなオリモノが出る
・食欲不振
・多飲多尿
・嘔吐
・下痢(黒色便)
・腹部膨満
・外陰部の腫れ

未避妊の犬でこれらの症状がみられた場合は、子宮蓄膿症の可能性が高いといえます。

多くの例では子宮の膿が外陰部から排出されますが、子宮内で増殖した菌が出す毒素が全身にまわってしまうとダメージが大きくなり、症状も深刻化します。

次に子宮蓄膿症の原因について細かく説明します。

犬の子宮蓄膿症の原因とは

泳ぐ犬

発情後の免疫力の低下

犬は排卵後に形成された黄体が機能する期間がおよそ2か月も持続します。そのため、犬は妊娠していなくても黄体ホルモンが2か月にわたって作用し、その間に子宮内膜が厚くなったりします。

この時、子宮内は細菌の増殖がしやすい環境となっています。さらに黄体期の厄介な点は“精子を追い出さないよう、受精のために免疫力を一時的に下げてしまうこと”で、細菌を追い出す力が弱まっている期間なのです。

子宮内への細菌の侵入

子宮蓄膿症の原因となる細菌の大部分は”大腸菌”で、肛門周辺の菌が子宮へ入って感染するケースが多いといわれています。

犬は排泄後や発情出血の時など、自分で舐めて綺麗にしようとします。その時に肛門と陰部が近いことから細菌が侵入しやすくなります。

加齢

子宮蓄膿症は、基本的に高齢で6歳から未避妊の雌犬に発症するリスクが高い病気です。

しかし1歳という若い雌犬でも発症することもあるので全年齢で注意は必要となります。

交配の後

上記に記載している“1歳と若い年齢に発症する”原因の一つとして、交配後に何らかの原因で細菌感染してしまうケースもあります。

入浴や海水浴の後(水遊びなど)

発情出血中や発情後などの入浴、海や川などでの水遊びも注意が必要です。発情期(発情出血・発情後など)は免疫力の低下が起こるため、特に野外などでの水遊びは細菌が侵入しやすくなります。

入浴や野外での水遊びは、発情時期は避けた方が良いでしょう。

子宮蓄膿症の原因となる細菌のほとんどは、大腸菌であるとお話ししましたが、この大腸菌から出る毒素(エンドトキシン)が全身に広がることで腎不全や多臓器不全を引き起こし、治療が遅れれば死に至ることになってしまうのです。

発情期後など注意深く観察することが重要だといえます。少しでも愛犬の様子に異変を感じた場合は、経過観察をせず動物病院で診察を受けてください。


犬の子宮蓄膿症の診断・治療法

検査を受ける犬 犬の子宮蓄膿症の診断法や治療法とは、どのような方法があるのでしょうか。次に診断・治療法を細かく説明します。

犬の子宮蓄膿症の検査方法

血液検査(赤血球・白血球・電解質・凝固系検査・生化学検査など)

血液検査では、腎臓や肝臓などに影響を及ぼしていないかなど体全体の状態を把握するのに大切な検査です。

凝固系検査とは、手術をする際に血液を自分の力で固めることができるかを調べます。

電解質とは体内にある水分中のナトリウム(Na)・カリウム(K)・クロール(Cl)・カルシウム(Ca)といった値を調べます。

人と同様、犬の体内は60%の水分で作られています。これらの電解質が1つでもバランスを崩すと命に関わります。

バランスが崩れている場合には早急に補液(点滴)をして体内の電解質のバランスを整えます。点滴の液を調合する場合にも必要な検査です。

レントゲン検査

腹部のレントゲンを撮影します。腹腔内で子宮がどれくらい膨らんでいるかを調べるのに必要な検査でもあり、同時に心肥大などの病気が隠れていないかもこ検査でわかります。

腹部超音波エコー検査

レントゲン検査と同じく子宮の大きさを確認するために必要な検査です。その他の臓器に異常がないかも確認できます。

犬の子宮蓄膿症の治療方法

内科的治療

比較的、犬も元気があり、食欲の低下などが見られない場合、子宮の頸管が閉じておらず排膿(体の外に膿が出ている場合)している場合、早期に病気が発見できた場合などは内科的治療として抗生剤や炎症を止める内服薬などを用いることができます。

内科的治療のメリットは自宅で治療ができるということ、デメリットとして再発のリスクがあること、内用薬が行き届くのに時間がかかり命に関わる場合がある、という点が挙げられます。

外科的治療

全身麻酔を施した上で、膿が溜った子宮を摘出します。希に卵巣を残す処置が行われますが、病気予防のために卵巣も一緒に摘出するケースが多いです。

全身状態が悪く全身麻酔を施すにはリスクが高い時など、症状によっては外科的治療を避ける場合もあります。まず点滴と一緒に抗生剤や炎症止めなどの治療を優先して、全身状態を整えてから外科的に治療を行います。

しかし、全身状態が最悪の場合でも、一刻を争う状態の場合は、緊急手術として早期に子宮を取り除かなければならないこともあるでしょう。

一刻を争う状態とは、子宮がなんらかの原因で破れる、子宮に穴が開いてしまうなどの状態が起こっているようなケースを指します。

子宮に溜った膿が腹腔内に漏れ、細菌だらけの膿がお腹の中に広がると、他の臓器などに悪影響を及ぼしてしまうためです。この場合、速やかに子宮を取り除き腹腔内を洗浄する処置を行わなければ命に関わります。

一般的に子宮蓄膿症は子宮に膿が貯まる場合が多いのですが、希に膿ではなく水のような透明もしくは粘度の高いドロドロとした液が溜る“子宮水腫”“子宮粘液症”という病気もあります。

子宮水腫・子宮粘液症とは、無菌性の液が子宮内に貯まり、子宮蓄膿症と同じように初期は無症状で子宮が膨らむことで膨満感による食欲減退などの症状が現われます。

子宮に貯まった物が膿なのか水腫なのかは、レントゲン検査や超音波エコー検査などでは区別がつきにくく、血液検査で炎症反応(CRP)を示す検査を実地して炎症性の子宮蓄膿症か子宮水腫(粘膜症)なのか判断をする必要があります。

原因としては子宮蓄膿症のように黄体ホルモンによる発症を含め全てのホルモンバランスなど発症する要因があるため詳しい原因は不明です。

では子宮蓄膿症にならない為にはどのような予防法があるのでしょうか。次に子宮蓄膿症にならないための予防法について細かく説明します。

犬の子宮蓄膿症を予防するには?

手術中の風景 犬の子宮蓄膿症は、避妊手術によって予防することができます。避妊手術にも二通りの方法があります。

①子宮を残して卵巣だけ摘出する方法
②卵巣・子宮全てを摘出する方法

①の手術方法は、卵巣を摘出することによって発情出血や発情期後のホルモンバランスの乱れによる子宮の病気を抑制できます。

②の手術方法は、日本では多くの動物病院がこの方法を実地していることが多い手術方法です。卵巣・子宮を全て摘出する事で子宮蓄膿症や卵巣腫瘍(癌)を防ぐことができます。

では、避妊手術にはメリット・デメリットがあるのでしょうか。次に、避妊手術のメリット・デメリットについて詳しく説明します。

避妊手術する場合のメリット

顔を近づける飼い主と犬
<避妊手術のメリット>

・望まれない繁殖の防止
・偽妊娠によるストレスの軽減
・子宮蓄膿症や子宮水腫(粘膜症)などの病気を防ぐ
・卵巣腫瘍(癌)などの病気を防ぐ
・乳腺腫瘍の発生を抑える

“望まれない繁殖を増やさない”という目的で手術を受けさせる方が多いと思いますが、実は避妊手術には“生殖器が関係する病気の予防”というメリットもあります。

なかでも乳腺腫瘍の発生率を抑えるには、避妊手術を受けるという選択肢が一番だと言われています。初回の発情、もしくは二回目の発情が来る前に避妊手術を受けると90%以上乳腺腫瘍(癌)を防ぐことができます。

血管が太くなり出血量が増えやすくなる発情期は手術を控えた方が良く、発情出血開始から3ヶ月ほど経った「無発情期」にタイミングを合わせる必要があります。

少しでも不安なことや、分からないことがあるときは、かかりつけの動物病院で相談の上で判断するようにしましょう。

<避妊手術のデメリット>

・全身麻酔での手術によるリスク
・太りやすくなる
・食欲が増す
・尿失禁

避妊手術のデメリットとしては、全身麻酔による身体への負担、体質の変化などが挙げられます。

全身麻酔をかける前に全身検査として血液検査や心電図検査などあらかじめ受けておくことで、麻酔のリスクは多少抑えられます。

肥満や食欲増加に関しては、飼い主が食事の量やカロリーをしっかりコントロールすることができれば特に問題はないでしょう。

希にですが避妊手術を受けることでホルモンバランスの乱れにより尿失禁をおこす犬もいますが、ホルモン剤の投与などで改善する場合もあります。

まとめ

犬の背中を抱く女性 愛犬の病気予防に対する意識は年々高まる傾向にあり、未然に防ぐ方法があれば率先して取り組む飼い主が増加しています。しかし、避妊手術にもメリット・デメリットはもちろんあります。

少しでも愛犬と長く過ごすためにも、飼い主である皆さんが避妊手術を正しく理解した上で、犬にとって最良の方法を選択してあげてください。

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文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。


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