2017年6月30日
【獣医師監修】近年増えている“犬の糖尿病”の症状と治療法
監修にご協力いただきました!
岡田雅也先生
そら動物病院 院長
2007年帯広畜産大学卒
京都大学大学院医学研究科中途退学(在学中、臨床獣医師としてバイトを経験)
兵庫県内の動物病院で3年
愛知県内の動物病院で3年(副院長)
2015年11月8日そら動物病院開業
生活習慣病のひとつである「糖尿病」。皆さんのなかにも予防に気を使われている方が多いのではないでしょうか。「糖尿病」にかかるのは人間だけではなく、最近では犬の糖尿病も増加傾向にあります。
糖尿病は、一生涯付き合っていかないといけない病気です。放置しておくと、命の危険に晒されることもある怖い病気でもあります。飼い主は犬が出している危険信号をキャッチして、早めに対応してあげる必要があります。
そこで今回は、犬の糖尿病に関する大切な情報をお伝えします。
もくじ [非表示]
犬の糖尿病の症状って?
糖尿病とは、インスリン(血液中の糖(;グルコース)を細胞に取り込むために必要なホルモン)の欠如、作用の低下によって、血糖値が高い状態が続く病気です。糖尿病になると、身体は糖をエネルギーとして利用できなくなります。そのため、身体はタンパク質や脂肪をエネルギーとして代用しようとします。
また、腎臓でグルコースはほぼ100%吸収されるのが正常ですが、糖尿病になるとその吸収力を上回ってしまうため、尿中にグルコースが排泄されてしまいます。
このような身体の変化によって、糖尿病はさまざまな症状を現します。
糖尿病の症状
・多飲多尿
尿中にグルコースが排泄されると、腎臓での水分の再吸収量が低下し、尿量が増えます。そのため、犬はお水を沢山飲むようになります。飲水量が体重1kgあたり100mlという割合を上回っている場合、多飲多尿になっている可能性があります。
・食欲が過剰になる
インスリンの欠如、作用の低下によって、細胞に十分なグルコースが取り込まれなくなります。そのため身体はエネルギー不足となり、食べ物から懸命にグルコースを摂取しようとするため、過剰な食欲を見せるようになります。
・体重が減る
グルコースが十分にエネルギーとして活用されないため、グルコースの代わりにタンパク質や脂肪がエネルギー源として使われます。これを異化(いか)と言います。タンパク質の異化が起こると、筋肉量が減少します。このような身体の変化によって、しっかり食べているのにも関わらず体重が減少していきます。
・頻尿
糖尿病で多飲多尿になるため、トイレの回数が増えることがあります。また、糖尿病になると、感染症にかかりやすくなります。特に多いのが、細菌性の膀胱炎です。膀胱炎になった場合、頻尿になります。・白内障を伴う
糖尿病の合併症の一つとして白内障があります。糖尿病の初診時(病院で初めて糖尿病と診断された時)の約60%が白内障を患っており、糖尿病発症から1年後には約75%が白内障を発症しているというデータがあります。糖尿病性の白内障は、進行が速いので、目の変化にも注意が必要です。
・糖尿病性ケトアシドーシス
糖尿病により高血糖状態が長期間続き、エネルギー源として脂肪が利用されると、その過程でケトン体が産生されます。酸性であるこのケトン体が過剰に産生されると、身体が酸性化し、ケトアシドーシスという状態になります。
ケトアシドーシスになった場合、ぐったりして、食欲がなく、吐いたり、下痢をしたりします。すぐに治療しないと、命の危険に晒されます。
糖尿病である限り、常に糖尿病性ケトアシドーシスになる危険性があります。
犬の糖尿病の原因とは
人の糖尿病は1型、2型、妊娠糖尿病、その他特定の機序・疾患による糖尿病の4つに分けられます。1型糖尿病は、β細胞(インスリンを分泌する細胞)が破壊されることが原因で、自己免疫性であると言われています。
2型糖尿病は、インスリン抵抗性(インスリン作用の低下)とβ細胞障害を特徴とし、肥満や生活習慣などと強い関連性があること知られています。
妊娠糖尿病は、妊娠中の女性ホルモンがインスリン抵抗性を示すことが原因です。
その他特定の機序・疾患による糖尿病には、原因となる遺伝子異常が特定されたものや、さまざまな疾患に糖尿病が続発したものが含まれます。
犬の糖尿病は、人の分類でいえば1型糖尿病に近いと言われていますが、中年齢での発症が多いことから、2型糖尿病に近いのではないかという説もあります。
また、特定の疾患に続発する糖尿病が少なくありません。犬の糖尿病の原因は明確には分かっていませんが、ここでは考えられる要因についてお話します。
・性別
糖尿病は、メスの方がオスよりも発生率が高いと言われています。人で妊娠糖尿病が知られているように、女性ホルモンはインスリン抵抗性と深く関わっています。特に犬は発情期から発情後期におけるホルモン分泌が関連してきます。
発情前期~発情期に分泌されるエストロゲン、発情休止期に分泌されるプロゲステロンが、血糖値を上昇させる作用を持っているため、インスリンの作用が低下してしまいます。
糖尿病を発症している未避妊のメスの場合は、発情期になると血糖値のコントロールができなくなることも多いので、避妊手術が推奨されます。
・クッシング症候群
糖尿病の併発疾患の中で最も多い病気が“クッシング症候群”です。クッシング症候群とは、副腎という臓器から分泌されるコルチゾールというホルモンが過剰に分泌される病気です。過剰に分泌されたコルチゾールによって、多飲多尿や多食、皮膚が薄くなるなどの症状を示します。
また、このコルチゾールが血糖値を上昇させるので、インスリン抵抗性を示します。クッシング症候群を併発している場合、糖尿病の治療に並行してクッシング症候群の治療も行う必要があります。
・甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症とは、さまざまな原因で甲状腺ホルモンの分泌量が低下する病気です。甲状腺ホルモンは全身の代謝を司っているホルモンで、低下症になることで体重増加や脱毛、高脂血症などさまざまな症状を示します。
甲状腺機能低下症による甲状腺ホルモンの低下とそれに伴う高脂血症がインスリン抵抗性を示します。
甲状腺機能低下症を併発している場合、糖尿病の治療に加えて甲状腺機能低下症の治療も行うことで、良好に糖尿病がコントロールできることがあります。
・先天性
先天的に膵臓に問題があり、十分なインスリンが分泌されない先天性疾患があります。このような場合、若齢時から糖尿病が認められます。犬の糖尿病の治療法
犬の糖尿病は、ほとんどの場合一生涯のインスリン投与が必要になります。また、インスリンの効きが悪くなる要因も一緒に改善していく必要があるケースが多いです。・インスリンの投与
糖尿病の治療の中心となります。インスリンを打つことで、効率的にグルコースを細胞に取り込むことができるようになります。人工的につくられたインスリンを犬に注射することで体内に取り込ませます。毎日打つ必要があるので、お家で飼い主自身が打つことになります。
インスリンの種類は数種類あり、犬の体質にあったインスリンを選択することで、血糖値を良好にコントロールしていくことができます。
インスリンは、量が多すぎても少なすぎても良くありません。
また、良好にコントロールができていても、状態によって血糖値が変動することもあるので、定期的に動物病院で診察をしてもらう必要があります。
・食事療法
食後の血糖値が緩やかに上昇するような食事が推奨されています。一般的に、低エネルギー・高繊維の「減量食型」の食事です。何種類かの糖尿病用の療法食がありますので、動物病院に相談してみて下さい。
・体重管理、運動療法
肥満は一つのインスリンの抵抗因子です。糖尿病になると食事が制限されます。特に、肥満状態の場合は、適正体重になるように減量していく必要があります。食事制限と共に、運動療法も合わせて行うと効率的に減量を行うことが出来ます。
・併発疾患の治療
「クッシング症候群」や「甲状腺機能低下症」が併発疾患としてある場合、これらの病気の治療も同時に行うことで、糖尿病のコントロールが安定化することがあります。これらの併発疾患が無いかどうか、動物病院で検査を行うと良いでしょう。
犬の糖尿病を予防するには?
糖尿病になると、一生涯の治療が必要になることが多いです。予防できるのであれば、予防したいですよね。糖尿病になる確率を減らすために、今からお話することに気を付けてみて下さい。・体重管理
肥満は一つのインスリン抵抗因子です。適正体重をキープすることで、糖尿病のリスクを減らすことができます。飼い主の中には愛犬が肥満になっていることに気づいていない場合もあります。犬種ごとの適正体重や、愛犬の体重の増減はしっかり把握しておきましょう。
適正体重に関しては、同じ犬種でもある程度の体格差が生じたりする場合もあるので、かかりつけの動物病院で聞いておくことが理想です。
・適度な運動
適正な体重を維持するために、適度な運動をしましょう。・歯周病予防
炎症がインスリンの抵抗因子になると言われています。多くの犬が持っている炎症が「歯周病」です。日々の生活で、歯磨きを習慣化させ、ケアをしっかりすることが歯周病予防に繋がります。
ただし、現在付いている歯石は歯磨きでは落とすことができません。獣医師に相談の上、歯石除去などを検討してみましょう。
・避妊手術を行う
発情期から発情休止期に関わる性ホルモンが血糖値を上昇させます。そのため、避妊手術をすることで発情に伴う高血糖を防ぐことができます。生殖器の病気の予防にもなりますので、繁殖の予定が無いのであれば避妊手術を視野に入れることをおすすめします。
・水分の摂取量を把握する
糖尿病になると、たくさん水を飲むようになります。1日で体重1kgあたり100ml以上飲んでいると赤信号です。例えば、5kgのワンちゃんでペットボトル1本分飲んでいる状況です。お皿の中が空になると水をつぎ足すようなお水の上げ方をしていると、飲水量が把握できないので、「最近お水の飲む量が増えたなぁ」と思ったら、一度きちんと飲水量を測定してみましょう。
暑かったり、運動後などは飲水量が増えるので、何日か測定してみる方が良いかもしれません。もし、赤信号の量を飲んでいた場合は必ず動物病院で診察してもらいましょう。
まとめ
数十年前に比べ、犬の平均寿命は二倍近く長くなっていると言われています。愛犬の寿命が少しでも長くなることは喜ばしいことである反面、糖尿病を含めあらゆる病気の発症率も高まっているのです。
歳をとることで病気の心配が増えるのは人間も犬も同じですが、自己管理ができない犬の場合は飼い主がしっかりと健康管理をしてあげる必要があります。
「あれ?最近お水をたくさん飲むようになったね」
そんな小さいことでも、気になることがあればかかりつけの動物病院へ相談してみましょう。
文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。
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