2017年9月29日

【獣医師監修】犬がご飯を食べない理由「わがまま」と「病気」を見分けるポイント

監修にご協力いただきました!

1996年 山口大学農学部獣医学科卒業(現:山口大学共同獣医学部)

2006年 ふくふく動物病院開業

元気はあるし、お気に入りのおやつは食べるのにご飯を食べない……。新しいご飯にするとしばらくは食べるが、すぐ口をつけなくなるのでもう何をあげたらいいのかわからない……。

このようなお悩みを抱える飼主さんはたくさんいらっしゃいます。「本当に食欲がない」のか、ただの「わがまま」なのか、その見分け方や対処法についてお話しします。

【チェックリスト①】犬が「わがまま」でご飯を食べない時の特徴

フードから顔を背けるパグ 体調が悪くてご飯を食べられないのか、もっとおいしいものを期待してわがままになっているのか?この違いは“ちょっとしたポイント”で見分けることができます。
・元気がある
・排泄に異常はない
・おやつは食べる
・運動をしたがる&遊びたがる
以上のチェックポイントに当てはまるものが多いときにはわがままで食べないと考えてよいでしょう。

「わがまま」でご飯を食べない場合の対処法

飴をなめているパグ 病気ではなく“わがまま”でご飯を食べない場合は、飼い主側の対応の見直しが早急に必要です。わがままがエスカレートするとフードをまったく食べず、おやつや人の食べるものが主食という感覚になり、栄養バランスの崩れから病気になりやすくなります。

子どもの時に偏食気味だった方は想像しやすいと思いますが、気分や好みによる「食べられない」「食べない」という選択肢を多く持つと、自分自身が辛くなります。精神面、身体面の両方の観点から、わがままは早めに正してあげるべきです。

【対策①】食べなかった時は必ずご飯を下げる

通常の食事サイクルがキープされていれば、フードの入った食器を目の前に置くと犬はすぐ完食するはずです。ドッグフードを食べなかったとしても、決まった時間になったら食器を下げましょう。

時間は短め設定で構いません。30分ほど経っても食べなかったら食器を下げましょう。そのあとにおねだりに来ても、犬用のおやつや人の食べ物をあげないことがポイントです。

お腹が空くと空腹に耐えかねておやつや人の食べ物をねだりに来るはずですが、なにもあげないで我慢させてください。要求吠えが続いたとしても、次の食事まではなにもあげず適度にお腹を空かせてあげれば、自然と食欲も出るはずです。

【対策②】食べたら褒める

ドッグフードを食べたらしっかり褒めましょう。全部食べることができなくても、少しでも食べたら褒めていきます。食べたら褒めてくれる、食べずに「おやつ」や「目新しいドッグフード」「人の食べ物」をねだるのでは褒めてもらえないのだ、ということを理解してもらいましょう。

【対策③】食事内容を工夫してみる

食事内容を工夫すると食べてくれる場合がありますが、手を加えすぎるのはかえって逆効果になる場合がありますので注意が必要です。

ドッグフードにふりかけ(ささみのふりかけ、チーズのふりかけなど)をかけるとその部分だけ食べる、缶詰をドライフードの上にのせるとそこだけ食べる、缶詰をドライフードに混ぜると全く食べない、もしくは缶詰部分のみ舐める、といったケースはよく耳にします。

40度ぐらいが一番食欲をそそるといわれていますので、お湯をかけてみたり、鶏ガラスープを作り(ほんの少し塩を足すのはよいですが基本味付けはいりません)フードにかけると食べることもあります。フードをローテーションで使う場合には2~3種類にしましょう。

【対策④】食器をかえてみる

浅すぎる食器、大きすぎる食器、深すぎる食器、など形状が極端なものは食べにくいため、この機会に愛犬の体格や口の形にあったものに変えてみるのもよいでしょう。例えば、短頭種(マズルが短い犬種)は口の形が平たいため外にこぼれやすい浅い食器は不向きです。

また、材質を変えるのもよいでしょう。プラスチック、金属、陶器などさまざまな種類がありますので、試してみて一番食が進んだものに変更しましょう。

また、汚れが付着したままの食器はカビが生えてしまったり、異臭が気になったりするため、それが原因でご飯を食べなくなる子もいます。汚れには細菌やカビがつくので、一緒に食べると体調悪化につながりかねません。食器はしっかり洗い清潔に保ちましょう。

【対策⑤】シニアの場合は、ふやかすなどの工夫をした上で様子見

シニア期に入ると歯や歯肉のトラブルが起こり、痛みなどの理由でドライフードを食べにくくなります。なかには歯が抜けてしまったことにより、固いフードが食べられなくなる子もいます。これは、口内環境によっては若い犬にも起こり得ます。

また、唾液の分泌が少なくなったり、呑み込みがうまくいかなくなったりすることでドッグフードがのどに詰まりやすくなります。ドッグフードをふやかしたり、ドッグフードにお湯や水をまぶし飲み込みやすくするなどの工夫をして、その後の様子を見てあげましょう。

【チェックリスト②】犬が「病気」でご飯を食べていない時の特徴

フードを眺めながら床に伏せているパグ
・あまり動かず、だるそうな様子をみせている
・嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状がある
・フードやおやつを変えても食べない
このような症状があれば、わがままではなく体調不良が原因でご飯を食べられなくなっている可能性があります。

「病気」のリストが多く当てはまるなら、改めて体調チェック!

「病気」を見分けるチェックポイントで当てはまる項目があった場合は、愛犬の様子をもっと詳しく観察してみましょう。具体的には、下記のような症状がでていないか確認してください。

・鼻水は出ていないか

サラサラの鼻水、ドロッとした鼻水、膿のような鼻水、両方から出ているのか片方からなのかによって考えられる病気が変わってきます。

・発熱はないか

体温計で測れるならば39度以上が発熱です。体温計がなければ、耳やお腹に触ってみましょう。

・口臭に変化はないか

口内炎や歯周病があると、過剰によだれが出たり、口内に痛みが生じたりすることで、食が進まなくなります。

・下痢や便秘はしていないか

胃腸系の調子が悪いと腹痛から食欲がわきません。

・尿の量や色に変化はないか

腎疾患や肝疾患、膀胱炎などの尿路系の病気になると尿の色が濃くなったり、尿量が減ったりします。

・嘔吐は無いか

胃腸系の調子が悪いと吐き気から食欲がわきません。

・目の充血はないか

角膜潰瘍やドライアイなどで目の痛みがあると食欲が減退します。


犬がご飯を食べない時に考えられる病気

目の前のおやつに口をつけず床に伏せているパグ 体調が悪くなると、食欲不振から食欲廃絶まで、さまざまなレベルで食欲の変化が見られるようになります。その中でも代表的なものを解説します。
【緊急度について】(※)
経過観察 :★☆☆
病院で相談 :★★☆
早急な対応を :★★★
(※)…こちらは病院へ行くか否かの判断で迷っている方へ向けた緊急度の目安であり、各病気の緊急性とは別のものになります

風邪などの呼吸器系疾患【緊急度:★☆☆】

鼻汁、くしゃみ、咳が出るなど呼吸器症状があると、臭いがわかりにくくなり食欲が減退します。熱が出たり、感染が進むと全身症状に発展し、さらに食欲がわかなくなります。

胃腸炎【緊急度:★☆☆】

抵抗力の低下、細菌感染、フードが合わないなどが原因で胃腸に炎症が起こります。その場合、吐き気、嘔吐、下痢などが起こり食欲もなくなります。

口内炎、歯周病【緊急度:★★☆】

口内炎は口の中の粘膜が炎症を起こし、ただれたように状態なって痛みを伴います。また、歯周病は歯垢や歯石が歯や歯周ポケット(歯と歯茎の間にポケットのような隙間ができ、ここに歯垢や歯石がたまります)に付着することで起こります。

歯垢や歯石は細菌の塊です。この細菌は炎症を起こすような毒素を出し、口内環境を悪化させます。歯周ポケットがどんどん大きくなると歯茎がだんだん衰え厚みがうすくなり、歯を支えることができなくなり歯のぐらつきが起こります。

さらに細菌感染から出血や炎症が起こり食べ物を食べるときに痛みを伴うようになります。さらに悪化すると歯根に膿がたまり歯茎が腫れてしまったりします。口の中がこのような状態になると、痛みや違和感からご飯を食べることができない状態になります。

腎不全【緊急度:★★★】

腎不全は体に2つある腎臓の機能が低下し、老廃物の排泄や必要な栄養素・水分の再吸収ができにくくなることから様々な症状を引き起こします。目に見えてわかる症状が現れるころにはすでに75%の腎機能が失われています。

老廃物が体内に溜まるようになると尿毒症という状態になり吐き気が起こり食欲がなくなります。腎不全の症状は「飲水量が増えた」「痩せた」「脱水している」などですので、飲水量が多いと感じた時には早めに血液検査を受けましょう。

膀胱炎【緊急度:★★☆】

膀胱炎になると膀胱壁が厚くなり、残尿感が強くなります。また、膀胱への細菌感染が同時に起きていることが多いため出血が起きる場合もあります。

膀胱炎の症状が進むと排尿時の痛みが激しくなったり、残尿感から何度も排尿姿勢をとるなどの症状が起こります。痛みや違和感から食欲が低下することがあります。

回虫症【緊急度:★★★】

リードやハーネスをつけたまま床に伏せているパグ 回虫は消化管に寄生する長さが5~10㎝程度の内部寄生虫です。回虫は母犬から胎盤や母乳を介して子犬に感染するケースと、糞便中に排泄された回虫卵を取り込んでしまうケースがあります。消化管内に寄生すると犬が摂取した食べ物の栄養を横取りしてしまうので、ご飯を食べているのに痩せてしまいます。

また、消化管内に多数寄生すると腸閉塞の原因になったり、食欲不振、吐物や便中に寄生虫が混じるなどの症状が現れます。他にも、条虫や鞭虫、鈎虫などの消化管内寄生虫は回虫と同様に犬に大きな影響を与え食欲不振の原因になります。

肝炎【緊急度:★★★】

肝臓にはさまざまな働きがありますが、その中に解毒という重要な役割があります。食べたものが消化・吸収される栄養素などは血液中に入り、腸を取り巻く血管から門脈という特殊な血管を経由して肝臓に集められます。

門脈を介して肝臓に入った血液中には栄養素だけでなく老廃物もたくさん含まれています。栄養素は肝臓内で利用できる形にして必要な部位に届け、余った分は貯蔵します。反対に老廃物は肝臓で処理され体に無害な物質にします。

肝臓の機能が低下しこのような働きができなくなると体にとって有害な物質が体内に増えてしまい、食欲不振や嘔吐、痙攣などが起きるようになります。

フィラリア症【緊急度:★★★】※初期症状に気づきにくいため

フィラリア症はミクロフィラリアを体内に持つ蚊に刺されることで感染し、最終的に心臓に到達し寄生したフィラリアの影響でさまざまな症状を引き起こす心臓病です。予防しなければフィラリア症にかかる確率は非常に高くなります。

フィラリアが心臓に寄生しても初期段階であれば目立つ症状があまりないので、何らかの症状が出た時には病状が進行していることがほとんどです。初期段階ではなんとなく元気がない、食欲が減ってきたというようなフィラリア症とは断定しにくい症状です。

病状が進行すると咳が出たり、腹水がたまったり、ガリガリに痩せるなどの症状が現れます。急激な呼吸困難、虚脱、赤ワイン色の尿が出る場合もあります。

膵炎【緊急度:★★★】

膵炎とは、膵臓が作り出す“膵液”という消化酵素で、膵臓自体が消化されて炎症を起こしてしまう病気です。症状は繰り返す嘔吐、食欲不振から廃絶、激しい腹痛などです。痛みが激しくなると背中を丸めたような体勢をとりうずくまり、触られることを嫌うようになります。

吐く回数が多く、食欲不振があるときには膵炎が疑われることがあります。血液検査で分かりますので、よく吐き食欲がない時には鑑別するためにも検査を受けたほうが良いでしょう。特に急性膵炎の場合は重症化すると腹痛が激烈でショック状態になり最悪の場合亡くなることもあります。

エサ入れをくわえて座っているパグ “病気で食べることができない”のか、それとも“わがままで食べないのか”の見分けは、元気の有無やおやつに対する反応などでおおよそわかります。わがままの場合は食べないからと言ってドッグフードを次々に変えたり、おやつや人の食べ物などをあげてしまうと逆効果になります。

一度偏食になるとドッグフードを食べさせようとしても難しいことがほとんどです。わがままでご飯が食べないことが当たり前のまま小食になってしまうと、体調不良の際に早く気づいてあげることができなくなりますよね? 現在の食欲不振の原因をしっかり見極め、理由が“わがまま”であった場合も真剣に対処しましょう。

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文:Qpet編集部
犬の病気やしつけ、犬との暮らしに役立つハウツー情報などをお伝えしていきます。


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